日本の文化がフランス大衆に浸透したのは、日本製のアニメーションがフランスのテレビで人気を呼んだ80年代からだと言われている。日本アニメファンは確実に増え、漫画、アニメ、Jポップ、ゲームなど、ティーンエイジャー向けの日本文化イヴェント《ジャパン・エクスポ》第一回が、3人のフランス人漫画ファンによって開催されたのは2000年だった。2500m2の会場に3200人の来場者を集めたイベントは毎年規模を拡大しつつ開催され、2016年には12万5000m2の会場に24万7500人を集客。ヨーロッパ最大の日本関係イベントとして君臨、今では経済産業庁、観光庁も関与し、内容も伝統文化、コスプレ、和食などのテーマが加わり、かなりディープになっている。開催の経済インパクトと共に、フランスの日本ブームを支えるイベント、と言っても良いだろう。
パリ・オペラ界隈ではRAMEN=ラーメンや IZAKAYA=居酒屋の店先にフランス人の列ができ、繊細で完成度の高い邦人シェフたちは次々にミシュランの星を獲得、質の高い日本食のレストランに文化人や芸能人が通い、DAIGINJYO=大吟醸の評価も鰻上りで、有名バーには必ず日本のウィスキーがある。雑貨店にも着物や、和装に似合う小物が並んでいるのは珍しくない光景となったパリに、『我こそは ! 』と、日本から正真正銘の伝統工芸品が直々に市場開拓に乗り込んできている。
伝統工芸の世界はご存知のごとく、一人前の職人になるのに長い年月がかかる上、制作にも時間がかかる故、昭和50年代をピークに、年々従事者数、生産額も減少の道を辿る産業だ。が、平成25年度の産地実勢調査によると、引き続き厳し状況の中、従事者の若返りの傾向が出てきているとの明るい話題も出ている。昭和49年に伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)が制定され、経済産業庁が復興に力を入れてきた結果が出てきたようだ。
この伝産法で一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会が発足。同会が《高い品質と一世紀以上伝承された職人の技を使った手工芸品》と認定した222点には、このページの写真欄でご覧いただいている伝統証紙を付けて販売することが許されている。そして産業の振興は、経済産業庁による事業計画に基づき大きく支援されており、後継者育成、産地指導、普及促進の他、需要開拓事業も実施している。東京の青山スクエア直営店には、全国各地から集まった伝統的かつ完成された機能美を誇る日常生活用品が並び、高価な工芸品を土産に買い求める外国籍の客が多いという。このような販売の場ともに重要なのは、新市場の開拓だ。
同振興協会はすでにパリ他の見本市に出展経験があるが、2016年10月から6カ月間、パリにある MAISON WA 内に日本全国の伝統的工芸品の常設ショールーム《L ‘ESPACE DENSAN》を設け、フランス市場に一歩深く踏み込んだ。オープニング・レセプションでは、長崎県みかわち焼き、平戸洸祥団右ヱ門窯の職人による平戸菊花飾細工の実演( 写真下(c)Yasuhiro OKAWA)も行われ、400年の歴史を持つ高い装飾技術に沢山の人が見入っていた。ここには全国222点の指定工芸品のうち100点あまりが巡回展示されており、アートとして賞賛するアマチュアのほか、プロ、バイヤーも駆けつけ、展覧会と同時にBtoBの窓口として機能している。
《眺めては、惚れ、使って、また惚れ込む》のが工芸品の奥の深さ。だが、この良さが、外国人に理解されないと購入に結びつかない。『自国の工芸品も美しいし使い慣れているが、日本のコレが一番良い』と、多くの人に納得して買ってもらえる品を提供する必要があるのは皆承知だ。従って、平戸洸祥団右ヱ門窯のように、海外市場開拓と同時に、輸出用ブランドを外国の会社と開発する事例は枚挙にいとまがない。
日本の伝統工芸の未来を示唆する需要を伸ばす鍵は、世界の文化に浸透するか否か、という点で暗明を分けることになりそうだ。日本の匠の技術は世界に誇れるものではあるが、《海外の大衆に購入してもらう工芸品》の開発には、国際的視野の取り入れが必須キーワードとなっている。
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