今や、ハイソな食卓だけでなく庶民の祝宴にも登板。 世界三大珍味のひとつ、キャビア生産国のフランス。

パリのブルジョワ達が、キャビアを食べるレストランといえば、シャンゼリゼ大通りに近い「プルニエ」、「メゾン・デュ・キャビア」、マドレーヌ広場の「キャビア・カスピア」、7区の「ペトロシアン」・・・どこも創業は約100年前の老舗で、狂乱の時代の着飾った男女がシャンパーニュやヴォッカと共にキャビアを味わうイメージが浮かんでくる。仏大統領邸エリゼ宮のレセプションには、カスピ海産のフレッシュなキャビアが伝説的音速旅客機、コンコルドで運ばれてきた時代もあったという。

中世の頃からカスピ海周辺で食されていたチョウザメの卵、キャビア。ヴォルガ川の河口にあるアストラカンで瓶詰め工場ができ、ヨーロッパへの輸入が始まると珍味としてブレイク、19世紀にヨーロッパの上流社会で食されるようになったようだ。世界大戦、ロシア崩壊を経て、政策の混乱した時期1990年代には、黒海とカスピ海のみで約2000トンが生産されていた記録も残る。ワシントン条約などで次々に捕獲の規制、禁止されたに関わらず、乱獲が絶滅の危機を深刻にし、天然のチョウザメは、ほぼ絶滅してしまった。

フランスの庶民がキャビアの存在すら知らなかった19世紀頃、バルティック・チョウザメを食用に捕獲する川がフランスにもあった。合流してボルドーでジロンヌ川と名前を変える二本の川、ガロンヌ川とドルドーニュ川だった。20世紀にはいり、この地方にやってきたロシア人の移民がキャビア、つまりチョウザメの卵を食べる文化を運んだ後、その唯一な味わいを求め、1960年代には生態系を壊すまでに乱獲され、漁は1982年に禁止されてしまった。

その後、フランスではじめてチョウザメの養殖の試みが始まったのは、アルカション湾に面したビガノス村。ムーラン・ド・ラ・カサドット養殖場では、それまで営んでいたマス養殖をチョウザメ養殖に転換し、養殖に向くサメ、水生植物や地下水を利用した最適な水質、水流、餌など、幅広い研究が始まった。約10年の歳月を経て、やっと人工ふ化、1993年にキャビア生産に成功し、商標を登録。会社名を「キャビア・ド・フランス」とした。粒揃いで塩加減も良く、エレガントに香り、深く長い味わいがあり、今ではフランス国内を中心に、トップ・シェフが好んで使う代表的な国産キャビア・ブランドとなった。

キャビア・ド・フランス社は、チョウザメをふ化させ、卵を取り出し、キャビに加工、販売まで一環して行う。卸売りだけでなく保冷バッグに入れ、保存に適した温度を保ったまま消費者宅へ直送してもらうことも可能で、養殖場では見学と試食(有料)、直売もする。「海の豚」と呼ばれるほど、どこも捨てるところのないチョウザメの皮や身、脂質は、それぞれの別の専門業者によって加工品になるそうだ。ちなみに、身を使ったリエット(パテに似た脂質を混ぜたペースト状の保存食)は同ブランドでキャビアと一緒に販売していた。

チョウザメ養殖の現場を見学しながら説明を受けると、30gのキャビアが最低53ユーロするのも納得できる。まず、チョウザメがふ化して約4年、約3kgほどになるまで成長を待ってから、エコー検査で性別を識別する。うち、メスが約8歳になったら成熟度をバイオプシーで検査。キャビアを取り出す前には、泥臭さや不純物を取り除く純粋な水の水槽で2週間ほど過ごさせ、キャビアの歯ごたえに影響するストレスを採り除く。その後、腹を切開し体重の10〜15%にあたる重さの卵巣を取り出す。

取り出された卵巣はふるいのようなもので不純物を取り除いた上、水で濯ぐ。その後、企業秘密の塩漬け行程を経て、水切りされたものが金属の平たい缶に真空状態に詰められ、製品となる。種類は、保存料の入らない「ディーバ」と、保存料が入り低温質で数ヶ月成熟させ出荷される「エベヌ」。ディーバのほうは、フレッシュなうちに戴く最高品質のキャビアで、少しの塩しか入っていない、との話だが、「エベヌ」が「ディーバ」に比べて〝味が落ちる〟訳では無い。

キャビアの量の目安だが、普通30グラムは「料理に少し添える」量だろうか。50グラムは「キャビアだけを、少し食べてみる」と言える量で、125グラム缶は「キャビア愛好家がブリーニや一度に食べる」量に、なるだろうか。財布の中身次第だが、キャビアの味を充分楽しむ為には、ある程度の量を食べて欲しい。舌にしみ込むようなヨードの風味と薄い塩味、バターやナッツを思わせる脂質を併せ持つフランス産キャビアの繊細な味わいは、是非、ミレジム(特に美味しい年にしか付かない年号)のついたシャンパン、できればブラン・ド・ブラン(セパージュが、シャルドネ100%のシャンパン)とのマリアージュを楽しみたい。

「キャビアはロシア、イラン産・・・」と言われた時代はすっかり終わり、イタリアに続き世界第二位にあたる、年間25トンのキャビアを生産するフランス。数年前から高級レストランのクリスマスや大晦日特別メニューには、必ずといって良いほどフランス産のキャビアが登場している。2016年のクリスマス前には、はじめて、大手スーパーマーケットのチラシの表紙に目玉商品として登場。(筆者が目に留めた広告の品はフランス産より価格の低いイタリア産=写真 ) 祝宴のスター食材として市民権を得た感がある。

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