ネームヴァリューのある有名デザイナーとコラボを実現、 欧州人の感覚にフィットするハイエンドなオブジェとしてデビューした 岐阜県の工芸品《セバスチャン・コンラン・岐阜コレクション》2017年1月/パリ見本市の最高峰メゾン・エ・オブジェ展レポート1

 

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海の無い本州のほぼ中央にあり80%以上が森林、清流として有名な長良川が流れる岐阜県は、5200万人の観光客(平成22年の県の調査)を受け入れる風光明媚な所として有名だ。古代から街道が通り、戦国時代には斎藤道三や織田信長が城を構え、城下町や宿場町では手工業が著しい発展をした。この時代に築かれた文化が、数世紀を経ても匠の技として伝承されており、それぞれに全国シェアの高いご当地製造品となって、今も県の経済を支えている。

岐阜県は、地域資源を生かして県民の活力と誇りを創出するプロジェクト「飛騨・美濃じまん海外戦略プロジェクト」を実施しており、海外輸出促進も支援している。海外へ市場を広げることで売り上げをアップ、すなわち県民の所得の向上と、観光誘致の効果を同時に期待し、【観光・食・モノ】を組み合わせた【ぎふブランド】として、一気に売り込む、官民一体の作戦だ。その一環として2014年、2015年には、フランス市場へもアプローチした。その際は飛騨牛と2014年にユネスコ無形文化遺産に指定された和紙のひとつである美濃和紙などのPRイベントをパリで実施。そして、この1月、著名デザイナーとのコラボレーションの結果として産まれた37の県産品を《セバスチャン・コンラン・岐阜コレクション》と銘打ち、パリ見本市の最高峰、メゾン・エ・オブジェ展で発表、欧州市場へ大きなステップを踏み出した。

インテリア・ショップとしてロンドン、パリほか日本でもおなじみのコンラン・ショップなどを創ったテレンス・コンラン氏の息子で、日産自動車とのコラボレーションでもおなじみの、有名インダストリアル・デザイナー、セバスチャン・コンラン氏。数年前、岐阜県から彼にラブコールをし、2年ほど前に岐阜を訪問。彼は完成度の高い製品が作られる県内の工房を訪ね、その技術と職人の心意気に感動。最終的に10社を選択し、伝統を感じつつ、新しくてオリジナルな商品を、ロンドンにある彼のデザイン事務所と岐阜を行き来して開発、今回の発表に漕ぎつけた。

メゾン・エ・オブジェ展の最新デザインを発信するNOW館内、木製の細縦格子をパーティションにあしらった《セバスチャン・コンラン・岐阜コレクション》ブースには、大きな日本地図が描かれていた。「和を示す輪、がっちりと組み合わされた輪が、このコラボレーションのシンボルに相応しい。」と、コンラン氏が創った丸いロゴマークが地図上に入っており、岐阜県の位置をも示していた。若干低い目に敷かれたシンプルな展示台には、各社の製品が数点ずつが並び、全体に、センスの良いセレクト・ショップのような雰囲気に仕上がっていた。

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ブースのアイキャッチは提灯風のランプだっただろうか。岐阜提灯の歴史は16世紀にさかのぼるとも言われ、盆提灯作りが江戸時代に盛んになった。細いヒゴを使い和紙を張り、美しい伝統柄を手描きする提灯作りの伝統は、現存する9社で継承しているという。その一つ、60年以上世界中でロングランヒットをしているイサム・ノグチによる「AKARI」を作りつづけるオゼキ(http://www.ozeki-lantern.co.jp/)は、フロアランプとペンダントランプを制作。存在感がありながら、和紙でできた繊細な軽快感は、気球の軽やかさがデザインの源。この品に魅了されスマートフォンで写真をとる多くの人が、”オゼキ社が「AKARI」の制作会社だ”と聞かされ、美しいラインを精確に形にする完成度の高い職人芸に納得、どの国の人も目を丸くし、大きくうなずいていた。90年以上提灯を作り続ける朝野商店(http://www.chochin.co.jp/)は、手提灯風の作品を担当。愛らしい洋梨のような優しいふくらみを持つ提灯にLEDランプが灯り、木製の持ち手で底から持ち上げる仕様。しっかりした安定感を持ちながら、持ち運びも容易なハンディさは一見しただけで理解できるため、商品を持ちあげて眺めては愛でる客が絶えなかった。

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木製の格子がそのまま家具になったような作品を担当したのは唯一、飛騨地方からの参加となった飛騨産業(https://kitutuki.co.jp/)。1300年の歴史を持つ高い技術の木工職人《飛騨の匠》の技術が伝承されている同社は、細い角材が均等に並んだような、一見ミニマルなデザインだが、体に触れる部分に緩やかなカーブが隠されている、見て美しいだけでなく座り心地、使い心地の良いレッドオーク製の椅子と机を制作。高山市にある工場での制作過程はヴィデオで展示し、しばし各国の同業者の目を釘付けにしていた。木材を使うもう一社は、檜の升をつくる大橋量器社(http://www.masukoubou.jp/)。1200年の歴史があるという升だが、日本一の升生産地である大垣市でさえ、5社で生産されるのみになっているという(2015年調査)。一見、近代化する生活の中で消えそうになった升文化だが、世界でわき上がる日本食ブームに乗って注目が集まっているとのこと。今回のコラボでは、四角い升が七変化したように、檜が香り、重ねられたり、組み合わせたりして使える、楽しくて美しい道具箱ができあがっていた。

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700年以上前から刀作りが始まり、鍛錬技術が発達した関市は、ドイツのゾーリンゲン、イギリスのシェフィールドと並ぶ 世界でも有数の刃物の生産地。今回、匠という文字をロゴマークにも使う志津刃物(https://www.shizuhamono.net)は、料理用包丁シリーズを制作。波紋を持つダマスカス鋼は握り易い木製の柄で支えられ、クールな雰囲気。世界的に有名な貝-KAIインダストリー(KAIグループ/ https://www.kai-group.com)も、白と黒がメタルに映える、双方向の削り器とはさみを制作。チーズや野菜を削るキッチン・ツールは、鎧のイメージがデザインの源だそうだ。

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提灯にも使われる美濃和紙には1300年の歴史があり、2014年にはユネスコの無形文化遺産に登録された県産品。美濃市には一枚一枚手漉きをして作られる和紙工場が残っており、今回「OBOERUコレクション」と名付けられたノート類を制作した家田紙工(http://www.iedashikou.com/)もそのひとつ。模様を変えた機械漉きの美濃和紙を数種類を一冊に手作業でセットし、手作業で和綴じという紐とじをしたノートに注目が集まった。表紙にはシルクスクリーンで「オタク」「すごい」など簡単な日本語が印刷され、コンラン氏の遊び心が一番表現された製品となった。

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経済産業省認定の伝統工芸品でもあり、美濃地方で美濃和紙と共に有名な美濃焼。土岐市のカネコ小兵製陶所(http://www.ko-hyo.com/)は、フランスの三ツ星シェフ、ピエージュ氏のお気に入りデザート皿、ぎやまん陶を制作する会社。今回は茄子紺ブルーは一点のみで、他は、外側に釉を施さないマットな白が印象的なシンプルなテーブルウェアを製作。白い食器で有名な瑞浪市の小田陶器(http://www.oda-pottery.co.jp/)とは一味違う白で勝負した。小田陶器のほうは、提灯の蛇腹のような凹凸模様をリムにあしらったテーブルウェアを発表。模様は陶器の厚さとなるため、ゴブレットを逆さにしてライトを入れるとテーブルに影が美しい放射線を描き、テーブル・アクセサリーにも使えそうなものになっていた。もう一箇所の焼き物どころ、多治見市の寿泉窯では陶芸家、安藤寛泰氏の創る結晶釉によるマグカップと大橋量器製のカップソーサーのセットが出来上がっていた。この結晶釉という亜鉛を成分にした釉を使う技法は、釉の調合と温度の調節、そして結晶を待つ絶妙なタイミングを必要とし、極限られた条件でのみ生まれる偶然の産物だという。細かくスパークした小花が吸い込まれるような深い藍色に映えるマグは、この技法一筋で作品を制作する寿泉窯ならではの完成度を誇っており、どの国の人にも愛される美しさを放っていた。

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会場では雑誌、新聞など国内外メディア関係者や代理店、フランスやイギリスの有名デパートを含む小売店バイヤー、デザイナーなどのVIP約250名を招待したレセプションも開かれた。コンラン氏と岸敬也岐阜県副知事、木寺昌人在仏日本国大使、そしてメゾン・エ・オブジェ展の主催会社SAFI専務理事のブロカール氏により鏡開きが行われ、升酒と飛騨牛が振舞われた。コンラン氏は何度も有名メディアのジャーナリストによるインタビューに答え、ハイエンドな伝統技術と《欧米人が取り入れた和テイスト》を兼ね備えた岐阜県産品への国境を超えた高い評価を得た事に対し、制作会社、スタッフと共に大満足していた。

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メゾン・エ・オブジェ展の発表によると、今回の入場者は約86000人。うち43000人が外国からのビジターで前年(2016年1月開催比)より17.4%増。内訳は伸び率が多い順に、ロシア人(同58.8%増)、日本人(57.75%増)、ポルトガル人(37.79%増)、アメリカ人(29.02%増)、スペイン人、韓国人、イタリア人、中国人などとなっており、同展は《長距離貿易時代への復帰を示唆》と分析している。参加企業のほうは、60%が外国籍という国際色溢れる2871社が参加。うち、初参加したのは800社。そして、日本からの参加は86社。会場内で、とにかく沢山の日本人とすれ違う見本市となった。
次回の記事では、《セバスチャン・コンラン・岐阜コレクション》以外の、メゾン・エ・オブジェ展に参加した日本の製品を扱うブースについてレポートしたい。

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