ハイエンドな工芸品、高度先端技術を持つ日本の企業が それぞれのコンセプトでバイヤーにアピールした 2017年1月、パリ見本市の最高峰メゾン・エ・オブジェ展レポート2

前回の記事では、有名デザイナーがコラボした岐阜県の工芸品が《セバスチャン・コンラン・岐阜コレクション》として、今年1月、メゾン・エ・オブジェ展に初参加した模様をおつたえした。今回は、これ以外の日本の製品を扱うブースをピックアップし、それぞれのケースを考察してみたい。

まず、メゾン・エ・オブジェ展の公式結果報告から。今回の入場者は前年比12.3%増加の、約86000人と、2015年のテロ関係の惨事の影響を受けて落ち込んだ2016年からは上昇した。うち43000人が外国からの来場者で、これは前年(2016年1月開催)比より17.4%増。伸び率が多い国順に、ロシア人(同58.8%増)、日本人(57.75%増)、ポルトガル人(37.79%増)、アメリカ人(29.02%増)、スペイン人、韓国人、イタリア人、中国人などとなっており、遠方国からの入場者増加を同展は《長距離貿易時代への復帰を示唆》と分析している。参加企業のほうも、60%が外国籍という2871社が参加。うち、初参加したのは800社。そして、 同展で配布された繊研新聞英語版THE SENKEN号外2017年1月20日号によると、日本からの参加は86社だった。

《セバスチャン・コンラン・岐阜コレクション》同様、【外国デザイナーを起用し、伝統技術を生かした日本ならではのプロダクト】を開発、発表するケースは、増加の一途だ。数年前からメゾン・エ・オブジェ展に連続参加している《ブナコ》(BUNACO/ http://www.bunaco.co.jp/)は、国産のブナの木を薄いテープ状にしてコイルの様に巻き、押出形成でフォルムを与えてランプシェード、テーブルウェア、家具、スピーカーなどを製造する会社だ。日本の優秀なデザイナーだけでなく、ドイツ、フランス人も起用し、素材や工程はほぼ同じでも、デザイン、用途にヴァラエティーがある製品群を創出している。触りたくなるほど滑らかで美しい曲線を描くウッディーなオブジェは、多種類が陳列されても統一感があった。黒い丸いスピーカー “ファッジョ”は、四角いスピーカーには無い、繊細な部分の音まで再生できる優れた製品で、ナチュラルな材質と奇をてらうデザインが、高機能の鍵となっていた。

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独自参加の民間企業の中には、【欧米のライフスタイルに合う商品を開発する日本の企業】のケースもあった。“食からエンターテイメントまで”香りという香りをクリエイトして製造する、塩野香料が開発した室内フレグランスの《キチベエ》(http://www.kitchibe.jp/)は、その一つ。二世紀以上の歴史を持つ塩野香料で活躍する調香師により開発された6つのオリジナル・フレグランス、“柚子”、“桜”、“抹茶”、そして詩的な“雪”、“和紙”、“キチベエ”というラインアップを発表していた。会場に訪れた人には各フレグランスを体験してもらい、島村卓実氏デザインの美濃焼ディフューザーで楽しむライフスタイルを提案していた。ディフューザーは石の様なデザインで、欧米人に禅庭を彷彿させ、精神を落ち着かせるフォルムと捉えられたに違いない。日本の文化の中の香り、日本人調香師の創造性は、地盤の違う香り文化に育った欧州人にも好感を持たれた、との市場調査結果を獲得しておられたようだ。

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《セバスチャン・コンラン・岐阜コレクション》の岐阜県の他に、県下4つの会社の作品を展示した和歌山県も【都道府県がイニシアティブを取った】タイプ。究極の快適を追求したバスマットの橋爪商店( http://www.docodemomat.com)、ガラスの食器に紀州漆をハンド・ペイントする塗り工房ふじい( http://www.nuri-koubou.com )、紀州産の天然素材、シュロを使用した高級たわし類を生産する高田耕造商店(http://takada1948.jp)、そして1830年創業の紀州漆器の会社、角田清兵衛商店は、ナノコート加工で食器洗浄器使用に耐えうる対劣性を加えた、桧材の弁当箱を出品した。“能ある鷹の爪”を持つ様な、優れた地場産業品ばかりで、伝統工芸生産力だけでなく現代の生活にマッチする開発力を持つ会社群だ、ということがどの国の人にも伝わったはずだ。

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【自治体と商工会議所、業界組合などで構成されるプロジェクト】を複数抱える京都市は、伝統を国内外で商品にすることに関しては最も長い経験を積み重ねる、日本一の国際都市だと言って良いだろう。今回のメゾン・エ・オブジェ展では、常連の《京都コネクション》(http://www.kyo.or.jp/kyoto-connection/)他、《京都コンテンポラリー》(http://www.kyoto-contemporary.net)もブースを構えていた。どちらも “京もの”を作る複数の会社が集まっているが、コンセプトは若干違う。《京都コネクション》の方は、2012年から同展に出展、京都の伝統工芸品の8つの会社が欧州市場に合わせて開発した商品を展示していた。人だかりの中では、白龍庵勝山(http://www.hakuryuan-katsuyama.co.jp/)の勝山陽子氏がノコギリの様にギザギザを付けた爪を使い、伝統の“爪掻き本つづれ織”を織る実演をしていた。他には、和紙と金箔紙の和紙来歩(http://washilife.com/)、木の織物の立野矢(http://www.tatinoya.com/)、金襴織物の加地金襴(http://kajikinran.com)、木版印刷物の竹笹堂(http://www.takezasa.co.jp)、プリーツ加工のYS企画(http://www.ys-kyoto.jp/)が、高さを生かした商品の展示をしており、建築家として有名な落合守征氏デザインした清水焼きの平安陶花園(http://www.toukaen.jp)と竹細工の横山竹財店(http://www.yokotake.co.jp/)が手前のカウンターで展示をしていた。ブース自体は狭いながら、充分に商品を見せ、総合的に集客は十分に得られた様に見受けられた。

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一方、《京都コンテンポラリー》は、京都の伝統とフランスのデザイナーとのコラボレーションがコンセプト。京仏具や表具、風呂敷などの伝統工芸10社と、パリの若手クリエーターを支援するアトリエ・ド・パリ(http://www.ateliersdeparis.com/)のデザイナーがコラボレーションした作品を、それぞれ発表していた。さらに、メゾン・エ・オブジェ展の期間を含めた約2週間、パリ市内のギャラリーでも展示会を催し、商談チャンスの増加と見本市に来れない人へのフォローをする、ポップアップ・ショールームの役割をしていた。欧州市場進出の機会を最大限に生かすために、時間と費用の投資を惜しまない《京都コンテンポラリー》の姿勢がうかがわれた。

【オンリーワン商品で欧州市場を狙う】会社の中、高級箸のマルナオ(http://www.marunao.com/)は、欧州の主要見本市での常連会社の一つ。寺社を彫刻技術を継承している同社では樹齢数百年の木材を使った芸術品レベルの箸などを制作している。ナイフとフォークの文化圏で、箸へのこだわりとその哲学がどこまで伝わるか、そして高価な箸の商品価値としてのポジショニングはどこか、が鍵だろう。

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2016年同展に初参加し、既にパリの有名セレクトショップ、コレット、レクレレール、リッツホテルで販売している歯ブラシ、ミソカは、微細加工技術を持つ夢職人(http://yumeshokunin.jp/misoka/index.html)が開発した水だけで磨ける美しい歯ブラシ。数種類のミネラルがコーティングされた微細加工を施した毛先を持ち、磨いた歯がツルツルするエコロジックな商品でもある。ブースでは、歯ブラシを説明、試した人には使用済みの歯ブラシを持ち帰ってもらい、更にその場でハッシュタグ入りのインスタグラム投稿をすると、もう一本プレゼントしていた。多数のサンプルを配布した効果はあったようで、今回は2016年の訪問客6000人を超えたに違いない。

さて、初出展のイワタ木工(https://www.iwata-mokko.jp/)は、夢元無双®という商標登録をしたけん玉のブランドのみで参加していた。けん玉に似たゲームは昔から欧州にあるので、欧州市場にとって全く新しい商品では無いが、この一点主義には、少し驚いた。実は、同社がけん玉製造を中止していた2010年、アメリカでストリートけん玉が大ブレイク。そんな中、同社が2009年以前に製造した“夢元”ブランドのけん玉が、プロの間で数十万円で取引されるほどになり、世界中から再生産を求める声が同社に届くようになった。そして、2013年に夢元無双®という新ブランドで再出発した・・・という経緯を持つ。確かに、同社の製品は、“玩具”を遥かに超えた“オブジェ”のクオリティを持っている。唐木、欅、スネークウッドなどの木材を選び、ものによっては10年間もの間乾燥させた後、木材の密度を鑑みて厳選された数パーセントの部分だけを使い、高度な技術を持つ職人が均等なフォルムに仕上げ、何層も塗料を重ね深みのある美しい輝きを与える。美しいだけでなく、プレイヤーを虜にする最適なグリップ、完璧なバランスを保つ設計で、国境を超えた高い評価を受けているのだ。けん玉発祥の地、広島県廿日市の誇りであるに違いない。

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メゾン・エ・オブジェ展参加の大きな魅力は、フランスだけでなく国際色溢れる訪問者が集まること、バイヤーに商品を見てもらうチャンスであること、会場で即商談のチャンスがあること、日本だけでなく欧州のメディアでも取り上げてもらうチャンスが多いにあること、ブランド力確立の一歩になること・・・だろう。JETROがオーガナイズするジャパン・ブースに参加する方法もあるが、今回ご紹介したように、プロジェクト全体で、単独企業で、あるいは製品やブランドだけで参加する場合、明確な訴求コンセプトが伝わり、それなりのインパクトで効果を生んだかと思う。メゾン・エ・オブジェ展の発表によると、2016年分同展の経済効果(間接効果も含む)は、3億7千万ユーロと推定されている。

 

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