フランス南西部、大西洋に面するヌーヴェル・アキテーヌ地方のジロンド県では、古代からワイン生産が盛んで、現在も赤を中心にボルドーワイン598万ヘクトリットル(2010年)が生産されている。紀元前から交易港として機能し、ガロンヌ川の湾曲に沿った形で発展した港町、ボルドーは『月の港』の異名も持ち、2007年にはユネスコ世界遺産に登録された上、世界でも有名な旅行ガイドブック、ロンリープラネットが『2017年に行きたいNO.1』に選んだほど、魅力的なアーバン・シティ。交易で繁栄した18〜19世紀頃の重厚感を持つ多数の建築物、広場と、2000年以降のモダンな都市計画が生んだ、新旧の美しい調和が、街のオリジナリティーとなっていると言えよう。
街を蛇行するガロンヌ川の両岸をつなぎ、市民の交通の便ばかりでなく流通経路の改良、街の拡張、経済発展の促進をも担うジャック・シャバン・デルマス橋は、2013年に完成した。近年人気の大型旅客船が通る際は、橋の中央部がゲートのように水平に上昇するスタイリッシュな橋で、川や橋を眺める遊歩道はレストランやショップが並び、市民が集う人気スポットになっている。この橋の袂には、2030年に向けて開発中のウォーターフロント地区、バッサン・ア・フロがあり、そのコアとなるワイン文明博物館、”シテ・デュ・ヴァン”が2016年6月に開館した。
驚愕に値する類まれな外観の建物は、XTU事務所の 2人の建築家アヌーク•ルジャンドルとニコラ•デマズィエールによる作品。ガラスとアルミニウムで出来た、光を程よく反射する帯状のパネルで覆われ、緩やかにねじりをくわえながら上昇する流動的なカーブ・ラインは、ワイン・カラフの中に注がれつつある黄金のソーテルヌ・ワインを彷彿させる。10のフロア合計13350mの延べ面積のうち、3000m2の面積を使った常設展(2階、日本式では3階)への入場券は、日本語も選択できるオーディオガイド付き。これを手に19テーマ、それぞれのワイン・ワールドへの旅が始まる。
優れたデザインの展示物は、優秀なミュージアム・グラフィックス&デザインの会社、カッソン・マン事務所が担当。環境に優しい天然の素材を多く採用し、マークに自分のオーディオガイドをかざしたり、展示物に触れると、選択した言語のオーディオ解説が流れる仕組みになっている。展示テーマの順番や誘導はなく、アート作品のような展示物に惹きつけられるように近づいていき、解説を見たり、聞いたり、触れたり、嗅いだりできるようになっているので、訪問者のポジティブなアクション次第で、奥深い理解ができる、というわけだ。
会場を歩くと、映像を駆使した『ワイン産地世界一周』、地球儀に描いてあるある国に触れると、その国のワインの歴史や解説が現れる『ワイン・プラネット』、タッチ画面で説明を得る『ぶどうの木』、ブドウがワインに変化する過程を用具とともに説明する『メタモルフォーズ』コーナー、そして、世界の10の地方から、その土地の伝統ワイン農法などを語る50人のワインメーカーのインタビューが聞ける『テロワールのテーブル』に行き着く。テーブルに映るワイン畑や解説シートに触れると、オーストラリア、ニュージーランド、スペイン、フランスのボルドー、アメリカ、アルゼンチン、ジョージア、イタリア、フランス のブルゴーニュ、ドイツのワインメーカーがそれぞれのワイン作りを語ってくれる。これを全部聞くだけでも、1時間以上を要するが、自ずと文化を比較できて大変興味深い。
その他、紀元前時代まで遡り古代ワイン文明やワインにまつわる神話などを映像で説明する『文明ギャルリー』、文芸や文化を生んだワインの話、ワインを構成する香りを体験できるコーナー、エキスパートのインタビューなど、五感を使いながら、自由に”ワイン・ワールドへの旅”を続けよう。
このフロアの鑑賞時間は平均2時間という話だが、オーディオ・ガイドの説明は10時間分用意されているため、ワイン好きなら3時間ほど滞在時間を予定したようが良いだろう。このフロアを一周したら、8階(日本式9階)展望フロアにある試飲コーナー”ベルヴェデール”に行こう。ガロンヌ川を眺めながら、常時20種類ほど用意される世界のワインから一つ選んで、試飲することができる(常設展のチケットは、8階アクセス、ワイン一種類試飲込みとなっている)。
他に、1階(日本式2階)では、ワインに因んだ企画展(常設展とセット券24euros 、企画展のみなら8euros)も、年に二回開催されており、その部分の日本語解説はスマホのアプリケーションにて取得、使用可能となっている。同階のオーディオトリウムは、講演や公演、上映会が、ワインの試飲会などが、開催される会場(イベントによって無料、通常は別料金要)で、若干の日本語書籍も所蔵する図書コーナーは無料で閲覧できる。同じく無料で入館できる地上階には、テラスがあるレストラン、ワイン・バー、軽食カフェ、そして、センスの良いワイン・グッズが売っているショップ、原産国70から集まった800種のワインを扱うカーブもある。ここでも生産者による無料試飲イベントがしばしば開催されているので、ぜひ立ち寄ろう。(この日は、 “シテ・デュ・ヴァン”のアンヴァサダーの一人、俳優のピエール・アルディティ氏も来店していた。)
“シテ・デュ・ヴァン”は、世界のワイン産地を代表するボルドーにふさわしい、国境を超えたワイン文明を学べる施設として高い評価を受け、開館一年で150カ国籍40万を超える入場者を迎えた。ワイン好きでなくても十分楽しめるボルドーの観光スポットとして、必ず訪問されることをオススメする。特に、ワイン&スピリッツの業界関係者イベント、ヴィネクスポに参加されるプロに向けて、6月18日にはビュッフェ・パーティーに参加できる特別ノクチューン入場券がネットで発売中なので、ご注目を。
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