フランスでの日本ブームを追い風に、年々増加する日本酒輸入量。ジュエトロパリ事務所が作成した資料によると、1988年から26年間の推移のうち、前年比(比較は輸入総額によるもの)100%を切った年が11年あるものの、2割以上の伸びを見せているのも11年あった。特に2016年は前年比約40パーセントの伸びを記録、2010年の輸入金額の倍以上に当たる約1億9600万円の酒がフランスに輸入された。
このフランスにおける日本酒市場拡大の仕掛け人、宮川圭一郎氏が運営し、パリ最高のプレスティージを誇るクリヨン・ホテルのシェフ・ソムリエに抜擢されたグザヴィエ・チュィザ氏が審査委員長を務めた『Kura Master 』という日本酒コンクールが、去る2017年6月26日に行われた。フランスのトップ・ソムリエ達を含めたワインのプロ32人が集まり、日本全国からエントリーしてきた221件の蔵元で造られる純米酒部門284種類と大吟醸部門にエントリーされた266種類をブラインド・テイスティング。より多くの点数を獲得した酒を、プラチナ賞(58本)、金賞(123本)として選出した。各賞のトップ5、つまり10本の中から更に、プレジデント賞と審査員特別賞が選ばれ、この10月に発表される予定になっている。
『蔵マスター』を運営される宮川圭一郎氏は1990年代をパリで暮らした日本人なら誰でも覚えている有名日本料理レストラン『サントリー』で支配人を務められたが、店が閉店。その後、紆余曲折されたあと、パリで日本酒の輸入販売を始められた。『酒はいらない』と断るレストランや食品店に、『では、吟醸を置いてください』とセールスをした逸話は、今やレジェンド。2000年頃からブレイクしたフランスでの日本料理ブームに乗り、日本酒の味や製造過程を知らないフランス人にも飲んでもらえるよう、まず業界のプロやソムリエにGINJYOを試飲させ、自らファンになってもらう意識改革を促した。この長年の啓蒙活動の甲斐があり、現在はグザヴィエ・チュィザ氏のようなプロ中のプロに日本酒のファンになってもらうことに成功した。
パリのパラスホテルの一つ、ペニンシュラ・パリに入るミシュランの星付き広東料理レストランで、シェフ・ソムリエとして働いたグザヴィエ・チュィザ氏は、ワインとのマリアージュ(※ フランス語で”結婚”の意。同時に、食事と一緒にいただくと美味しさが相乗される相性の意。)が難しかった酸味、苦味、野菜の風味、ヨード香をしっかり持ったアワビなどの味に、驚くほどしっくりと美味しい日本酒があることを発見し、自ら日本酒の大ファンになったという。そして、先の広東料理レストランでは、一年に約2500杯の日本酒が提供されたという。傍ら、日本の蔵元を訪ねて様々な酒の味、歴史、日本の酒事情に精通していった彼は、『日本では日本酒市場が劇的に収縮し、この100年で8000あった蔵元が1200にまで減少している』事実を目の当たりにし、自らフランスでの日本酒の宣教師役を買って出た。そして今回の『フランス人のワインのプロが選ぶ、初めての日本酒コンクール』の企画が生まれた。
『Kura Master』の審査員は現職のソムリエがほとんどで、中には国の最高職人賞、MOFの称号を持つソムリエも。有名調理学校やソムリエ学校の講師、有名ワイン醸造家、ワイン業界誌ジャーナリストなど、プロ中のプロばかり32人が集まった。フランスのガストロノミーを知り尽くした彼らが『美味しい』と評価した日本酒は、今後レストランのワインリストに加わり、具体的な日本酒とのマリアージュをソムリエが消費者に推薦し、確かな消費量の増加、そして輸入の拡大につながっていくに違いない。ソムリエのテストでも日本酒知識が問われる時代になり、フランス料理と日本酒の国際マリアージュが日常的な光景になる日も遠くないと言える。
プレジデント賞と審査員特別賞は10月に発表されます。
写真提供= Kura Master