フランスにある香水博物館といえば、南仏グラースの本社工場やパリのオペラ座付近に1926年から香水を製造するフラゴナール社が設立したものがある。これら無料の香水博物館を見学した後にショッピングをする団体旅行コースも多く、『香水は少しお勉強したあとに、自分好みの香りを選んで買う』楽しさを定着させたと言える。
これに後発する形になったことを意識してか、『大(グラン)』がついた、ル・グラン・ミュゼ・デュ・パルファム(大香水博物館)が、2016年12月に開館した。色の魔術師という異名を持つデザイナー、クリスチャン・ラクロワの本社が入っていた白亜の洋館は、大統領官邸、エリゼ宮から徒歩2分、星付きレストランも入るパラス・ホテルのル・ブリストルの向かいというパリの一等地にある。1400m2を使い、フランスを代表するミステリアスな無形芸術としての『パルファム(香り、香水)』を視覚、嗅覚、聴覚を使って楽しむモダンなインタラクティブ・アートとともに、楽しみながら理解し、文明発祥から現在に至るまでの香水文化を深く理解できる施設となっている。
見学はまず、香水の歴史を語る地下階から。ポップなイラストが並ぶ『魅惑の回廊』は、シバの女王とソロモン、アントニーとクレオパトラ、カトリーヌ・ド・メディシスと調香師レネ・ル・フロランタン、そして、1ヶ月にオーデコロンを40リットル使っていたナポレオン1世とウジェーヌ皇妃など、香水にまつわる魅惑的なパーソナリティーのエピソードを知るパート。『聖なる源』と題された部分では、そもそも『パルファム』の語源は古代エジプト時代に遡り、神聖な儀式の際、神に香りを届けるために良い香りの木を燃やしたことに由来することなどの説明が。紀元前3500年ころに使用された香料、ミルラとフランキンセンス、そしてクレオパトラも身につけていたとされるキフィという練香の逸話とともに、展示物手前にあるボールで実際の香りを聞くこともできる。『好奇心のキャビネット』部分では、中世から19世紀の西洋では、香りがどのように扱われ、文化として浸透したかがわかる。エピソードを語るアニメーションとともに、14世紀に作られたとされる若返り薬として有名なアルコール系香料『ハンガリー王妃の水』、中世時代にペスト予防に効くとされ流行ったヴィネガー系香料『4人の盗人のヴィネガー』など、歴史に残る有名な香りも体験できる。
階段を上がって二階に続く見学は、『嗅覚の秘密』がテーマ。香りというものが嗅覚を通してどう作用するものなのかを説明した美しいオブジェで説明してある。『香りの化学と嗅覚』では、何百万というニューロンがそれぞれの化学物質としての香りを認識する人間の頭脳を4Dオブジェで解説。次は、大広間一杯に、くねりながら繁殖する不思議な花のようなオブジェに覆われる。この花の部分に近づくと、それぞれ香りと原料のイラストが光って浮き上がる仕組みになっている『香りの庭』。バニラ、カシスなどの香りが、思い出や感情を沸き起こさせるという実体験を引き起こすインタラクティブ・アートになっている。
さて三階に進むと、『調香師の芸術』を理解するコーナー。5本の枝を持つインスタレーション、『調香師の嗅覚回想録』と題されたコーナーでは、バラからインスピレーションした5人の調香師による香りの違いを認識してみたい。次に続くのは『素材のコレクション』と題された、しなやかな曲線を描きつつ、天井から吊りさがる丸いボールたち。25個のボールをそれぞれ手にとり、鼻に近づけると香水を構成する素材としての香りが聞け、耳にかざすと説明が流れる仕組み。いくつか香りの体験を繰り返せば、インタラクティブ・アートとコミュニケートしている気分になる。
次のコーナーに並ぶ化粧台に座れば、調香師のインタビューが映し出される。壁に組み込まれたスクリーンにドキュメント映像が放映されるコーナーや、調香師が調香する際に使う、香りのオルガンと呼ばれる調香台をモチーフにした光と音のオブジェ『香りの星座』(ジェイソン・ブルージュ・スタジオの作品)もある。
地上階のショップには、香りを知り尽くした優秀な専門スタッフがいるので、貴方にぴったりな香りを探してもらおう。そして、大人向け、子供向けの香りを学ぶ講座も随時開催されるので、サイトでチェックして、予約をして出かけよう。