仏領アルジェリアで生まれたイヴ・サンローランは、18歳で巨匠クリスチャン・ディオールのアシスタントとなり、師が亡くなった1957年に、フランス最高のプレスティージのあるメゾン、クリスチャン・ディオールのチーフデザイナーに抜擢されたラッキーボーイ。クラシカルなエレガンスを得意とするクリスチャン・ディオール社のチーフデザイナーとして初めて、1958年にコレクション、”トラペーズ”を発表。それまでの女性を強調する曲線を描いたドレスから一転、大胆に膝までまっすぐ広がる台形ラインで、素直で活発な新しい時代の女性像を表現し大成功を収め、イヴ・サンローランの名は、21歳の天才デザイナーとして世界に知れ渡った。

この後、徴兵、入院するの間、マルク・ボアンにチーフデザイナーの座を奪われ、クリスチャン・ディオール社を退社。だが、1962年にピエール・ベルジェ氏と共同経営でブランド、イヴ・サンローランを設立し、モード界に王手を打った。有名老舗メゾンのしがらみから解放された彼は、 現在のモードの基礎とも言えるモダンなコレクションを次々に発表、パリはもとより、世界のトップデザイナーとして君臨し、2002年に引退、2008年にこの世を去った。

21世紀に生まれたファッションの基礎を築いたとも言えるイヴ・サンローランのレジェンダリー・コレクションは枚挙に遑がないが、彼自身『４４年のキャリアの中で、一番大切なものを選ぶなら、スモーキングだろう。』と発言している。彼のスモーキングは、1966年にセンセーショナルに誕生。男性服が女性服にアレンジされる魁となったパンタロンスーツ・スタイルは、彼女たちのプライドを満足させる凛とした完成美で、女性自身のジェンダー哲学に影響し、さらに社会女性史に大きく影響力を与えるマスターピースとなった。その後スモーキングは、コレクションのたびに現れ、黒いジャケットと颯爽且つしなやかに揺れるパンタロンは、長さや幅、素材を変え、雰囲気の違うブラウスやアクセサリーが加えられ、ジャンプスーツになったり、ロングスカートを組み合わせてイブニングドレスにも変化した。

他にも、船員や水夫の実洋服をアレンジしたマリン・ルック（1962年）、直線的なのに来やすいジャージー生地で作った着るモダンアート、モンドリアン・ルック（1965年）アフリカで獣を追う男の服をセクシーな女性に着せたサファリ・ルック（1968年）、など、女性に新しいパワーを与えるようなスタイルを次々に発表した。20世紀を代表するデザイナー、サンローランは、演劇やバレエ、キャバレー、映画用衣装も数多く手がけ、際限の無いクリエイティヴィティも発揮していった。メゾンの経営面を一手に担ったのは、ビジネスと芸術の両域に千里眼を持った文化人で、かつサンローランの人生のパートナーでもあったベルジェ氏。彼の存在があったからこそ、サンローランは才能を十二分に発揮でき、会社は順調に発展した。

2017年10月に開館したパリのイヴ・サンローラン美術館は、1974年以来、サンローラン・モードのアトリエ兼ヘッドクオーターだった第二帝政時代建築の白亜の洋館をそのまま使用。 彼がクリスチャン・ディオール社に席を置いた1955年から1960年のものも含み、1962年から引退した2002年までのサンローランの5000点の作品とアクセサリー、デッサンや写真、アトリエで使われたオブジェなど、記録物34000点を所蔵するピエール・ベルジェ・イヴ・サンローラン財団が運営する。

館内には、ディテイルまでこだわり、生前のままに再現された彼のアトリエや、数々のインタビューヴィデオとともに、クロッキー、コレクションシート、オートクチュールなどが展示され、生き生きとサンローランの革命的モードとその時代を再訪できる。企画展部分は2018年9月以降、オートクチュールほかの展示内容が変わる予定だ。

また、同時にモロッコに開館したマラケッシュ館の広さは4000m2。彼が愛した美しいマジョレル庭園とともに、ぜひ機会を作って訪れたい。

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