フランス製の製品のみを集めた見本市、第6回メイド・イン・フランス=MIF展が今年もパリのポルト・ド・ベルサイユ展示会場で三日間開催された。今年は第1回目と比較して4倍、前年比で10%増の6万人を集客、出展企業数も85から450と確実に数字を伸ばしている。
フランス製というと、ルイ・ヴィトンやシャネル、エルメス、バカラなどといった高級ブランドやエアバスをまず思い出すが、世界中で日常生活に使われる製品も多々ある。鍋のル・クルーゼやストゥブ、オーブンで調理する場合にも使える耐熱ガラスで有名なピレックスなどはフランスで産まれたもので、グルメの国らしくキッチンまわりに多い印象がある。
フランスのお国芸、オートクチュールを支えた伝統的な刺繍技術、レース編みやゴブラン織り、絹生地、木綿生地の生産量は、数世紀前のマニュファクチャー黄金時代からはかなり縮小しているのが現状で、今では高級品のみ。しかし、かつて生産が盛んだった地方では小規模ながら、高い技術を維持しつつ、ほそぼそと生産が続いていたり、他国製の生産力と販売力に押されて倒産寸前まで追い込まれた企業が、新しいコンセプトや経営体制で、経営を立て直し成功していた例もある。
フランスの愛国心を現わすシンボル、雄鳥が描かれたイラストがポスターになっているMIF展の『MIF』は、 Made In Franceの略で、フランスでは珍しく英語が堂々とタイトルになっており、国際的なストラテジーを垣間みる。この見本市が始まった2012年は、オランド大統領時代。当時、経済・産業・デジタル大臣だったアルノー・モントブール氏が推奨した『メイド・イン・フランスを作って、皆で買おう。』と声を大にした、自国生産&消費で経済回復を狙うメイド・イン・フランス政策を打ちだす前だった。
フランスでは、フランスの伝統的な産業文化の継承を推奨、保護する目的で、政府が、技術や文化を継承形で存在する企業を『EPV(伝統振興企業)』として認定する制度が2005年に発足した。また、2011年から『フランス産保障』ラベルもできた。付加価値の半分がフランスの生産物で、本質的な特徴がフランスのものと認められた製品について、『フランス産保障』ラベルを付けた消費者向けヴィジュアル・コミュニュケーションを許可している。現在、『フランス産保障』は2000物品(2017年10月)、『EPV(伝統振興企業)』は1400件(2016年)あるとのことだ。『将来に受けつがれて欲しい技をもつ企業や職人』を産業遺産レベル化、メンバー化する機構は年々増えており、保存や将来的補助だけでなく、観光資源化や地域開発に繋げるプロジェクトも各地にあるようだ。
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さて、会場では、比較的展示会場のアクセスの良さそうな場所にスタンドを構えていた二つの制度で認定された企業だけでなく、『フランス製』を目当てにした沢山の来場者が、初日の午前中から既に沢山集まっていた。スタンドを訪問しながら、ポジショニング・マップの軸になるキーワードが浮かんで来た。『伝統的な工芸、歴史のある工業製品』『伝統的な食材関係』『伝統的な生活美学(アール・ド・ヴィーヴル)』『モダンなフレンチ・ポップ・スタイル』『先鋭的なテクノロジーやイノヴェーション』『ナチュラル指向、エコロジー対策、産地消費で消費CO2排出量減』・・・となりそうだ。
日常生活に密着した品質の高い製品を作り続ける『伝統的な工芸、歴史のある工業製品』として一番ポピュラーなのは、ボールペンやライターのビック社だろう。1944年、パリのすぐ隣の街で産まれた会社は、1950年に、書きやすくて安価な使いきりボールペン「ビック・クリスタル」を開発し商標登録。現在では、日本を始め世界中どこへ行っても知らない人がいないほど圧倒的なシェアを持つ会社だ。
料理のプロが必ず選ぶ銅の鍋は、「鍋の神の町」という名のノルマンディー地方の村で、現在も生産を続けるモヴィエル社。鍋の取っ手のつけ根には、ロゴと一緒には創立年「1830 」が刻印される鍋の最高級品だ。鍋の生産は、中世時代から製鉄、彫金技術を持った職人が住んだ村を今でも支えているのだ。長い歴史を持つ地域色の濃い工業製品として、フランスの中央部、ラギヨール・ナイフ生産で有名なル・ティエール村の、クロード・ドゾルム社も同様に郷土色濃い会社だ。
これほどに郷土色は無いが、アンゴラ山羊のふわふわモヘアや羊毛フエルトなどを使う洋服や帽子も、このカテゴリーに入る。下着、Tシャツ、靴下、ランジェリーなどは、どちらかというとモードとしてブランディングとデザインで勝負、『モダンなフレンチ・ポップ・スタイル』のポイントが重要なポジショニングだ。モード以外でも、新しい若い消費者層を狙う伝統飲料も、ヴィジュアル・マーケティングは避けては通れない。会場では、ポップなデザインの地ビール、シードル、リキュール、チョコレート菓子などの会社(ブランド)を見かけた。
自然の恵みを利用したナチュラル・コスメティック関係も数多く参加していたが、中でも、ロバのミルクに匹敵する栄養素がアンチエイジングにも効果があるという、馬乳を使ったコスメティックを開発、販売する会社があり、親会社の牧場の宣伝もしていた。これらは、『ナチュラル指向、エコロジー対策、産地消費で消費CO2排出量減』コンセプトも持ちあわせた、同族企業で資源を共有する多角経営化の良い例だ。
そんな中、丁寧にミシンをかけていた女性がジーンズ製作を実演していた1083社のスタンドでは、特に大勢の人でごったがえしていた。トルコなどから仕入れた綿を、デニムの発祥の地、南仏ニームの工場で染色、生地に加工し、1083km離れたブレターニュ地方の工場でできあがるジーンズを売る会社だ。最低価格は約1万円と、嬉しいお値打ち感もある。グリーンピースによる衣料品産業の環境汚染デトックスキャンペーンが報道されて拍車がかかったフランス人消費者のエコ意識の高さをも背景に、消費者を満足させる品質と価格競争力を持つ製品、しかも、資金集めはクラウド・ファンディングを使い、フランスでは年間3億6000本、と平凡だがモード・アイテムの中でも最も売れるジーンズで成功した若い世代のエネルギーを感じた。
**** 中略
さて、
450企業のスタンドの中には行政地域がイニシアティブをとった出展ケースも多く見られた。イノヴェーションと食関係に分けたオーヴェルニュ・ローヌ・アルプ地方のスタンド、ドローム県、オート・ロワール県などがあったが一番大規模にアピールするしたのは、21のブースをまとめたノルマンディー地方だったかもしれない。
ノルマンディー地方は、中世時代から『鉄を打ち、ガラスを流し、木を育て、布を織り、バターやチーズ、シードルをつくる』生産能力の高い地方というキャラクターを持つ。既に言及したモヴィエル社、バターやチーズなど美味しい乳製品のイズニー・サント・メール社、ボーダー柄のマリン・ルックを製造するサン・ジェームス社、芳香オイル・ランプのランプ・ベルジェ社など知名度の高い企業も参加していた。
ジョレル1864社は、1878年、1889年、1900年のパリ万国博覧会でメダルを獲得している歴史のある伝統木製玩具を製作する会社。創業者の末裔である5代目社長は、『モン・サン・ミッシェルに行くと、メインロードに並ぶのは中国製の土産物ばっかり。フランスに来たらフランス製を買って帰ってもらいたいでしょ。僕はがっかりして、このシリーズを作ったよ。』と、エッフェル塔が軸になったコマを見せてくれた。けん玉のルーツのブルボケやゲートボールのルーツ、クロッケー・ゲームなどの伝統的なゲーム用品を展示する傍ら、製作実演もしていた。また、ガブリエル・ラヴェさんは、家具に布張りするタピシエ。『伝統的な生活美学(アール・ド・ヴィーヴル)』と『伝統的な工芸』にポジショニングできる。修復された18世紀の調度品を、城などで展示されている状態で見ることはあっても、その修復作業は見る機会がなかなか無いため、彼の実演やスタンドで放映されていたドキュメンタリー映像に人々は足を止めていた。
ジャネット1850社は、先述したイズニー・サント・メール社のバターを使った貝がらの形の焼菓子、マドレーヌ専門店。この会社、2013年に倒産を宣告されたが、社員達は工場閉鎖に反対、抗議運動として生産を続けた。その後、クラウドファンディングと実業家によって資金は調達され、買収に成功。会社名に創業年を冠し、製品ラインを完全に高級志向に変換して再スタートした。MOF(フランス国家最優秀職人章)一流パティシエ、フィリップ・パルク氏はボランティアでレシピを提供。スーパーマーケットでは買えない、とっておきのマドレーヌを製造する会社に成長した。
***中略
他にも、馬具やブラシ、機械網みレース、香水など創業100年を超えるフランスらしい製品をつくりつずける老舗企業、テクノロジーを使ったイノヴェーション・グッズやリサイクル素材のアイデア・グッズの新しい企業、グルメなテロワールを生産する農業組合などあらゆる商品が並んだ。ナチュラルなヒゲ専用のコスメ、19世紀創業の靴墨専門店などは、ダンディーな男の美学を支えるアイテム。この国で特に最も品質の高さが要求される製品かもしれない。
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昨年の消費者意識調査(リサーチはIFOPが担当)によると90パーセントの国民が、『フランス製』は、『将来に大切なキーワード』と答え、その内94パーセントの人は『フランス製を買う事』が、『フランスの会社を応援できる一つの解決策』との認識があり、93パーセントは、『フランスの技術を維持する役割りがある』と考えていると報告。フランス製であることは、フランス人消費者にもポジティブな印象を与えることは明らかだ。日本でも、『C国製』ではセールスポイントにならないが、『フランス製』は、セールストークになっている。
MIF展は来年3月、シンガポールで開催されるNOOK ASIA展にやってくる。日本、中国をはじめアジアとオセアニア圏でのB2B契約のチャンスを期待してやってくるフランス企業もあるので、これからフランス製輸入を考えていらっしゃる企業は、『掘り出し物』のチャンスではないだろうか。