環境に優しい未来感覚のレース、 世界の市街地・リゾートをサーキットに疾走するフォーミュラE、 この4月に第5シーズン第8ラウンド、パリE-Prix開催。

世界的に有名な経済紙、ファイナンシャル・タイムズ紙が2007年に発表した『スペイン経済界有力者ベスト10』に名を連ねるアレハンドロ・アガグ氏と、元F1チームの監督、FIA会長ジャン・トッド氏が2012年に創立発表した電気自動車だけのレースは、2014年の北京開催から始まった。EVを使った新しい市街地レース、FIA(国際自動車連盟) フォーミュラEは、今シーズンで5回目、その第8ラウンドに当たる、パリE-Prixが2019年4月27日に開催された。

今シーズンもGPのように、13回のレースの合計点で、E-Prixチャンピョンが決まる。このレースは電気自動車産業の発展に貢献するだけでなく、極めてエコロジカル。地球温暖化、環境対策への自動車スポーツ業界からのポジティブなオピニオン、イメージをグローバルに発信する目的もある。

レギュレーションに伴いレーシングカーも第二世代になった今シーズン。空気抵抗を少なく、且つダウンフォースも併せ持つレーシングカーのデザインは完成度を増しスタイリッシュになったと言える。大きく変わったのは、バッテリー容量。以前は28kwhで、最後まで走れず二台のレーシングカーを使ってレースを終えるレギュレーションだったが、グレードアップしたバッテリー容量は約2倍、一台で最後まで走り切ることが可能になった。 最高速度は、350km/hを超えるフォーミュラ1には程遠いもものの、約55km/hアップの280km/h になったそうだ。最大出力は200kWだが、直線部分にアタック・ゾーンがあり、そこでのみ使用可能は25kwの予備のアタック・モードを使えるのも今回からの規則だ。

フォーミュラ1のように耳をつん裂く爆音はでないモーターなので、各チームがエグゾーストノートを加えている。観客は音でも、マシンの個性を比較できるというわけだ。そしてファンにファンブーストというゲーム要素を提供している。これは、スタート6日前からスタート後15分まで(この規則は頻繁に変わるようなので、毎回チェックが必要)に、お気に入りのパイロットへ#FANBOOSTサイトで投票、あるいは名前をハッシュタグにしたSMS投稿をする。すると、統計されて人気上位5名のパイロットには、エキストラ・パワー25kwを与えられるもの。レースに加わる感覚を与えてくれる面白い企画は、ポップス・フェスティバルの人気投票やTVゲームを彷彿させる。

重量は軽くなってきているものの変わらないのは、『タイヤはミシュランのパイロットスポーツEV2を使用』という規制。コース、天候に関係なく、この全天候型のタイヤで戦う、という点では、レーシング・チームとドライバーのリアルな戦いが勝利を左右するのは間違いない。

パリのレースはセーヌ川にかかる一番美しい橋、アレキサンドル3世橋の麓から、金色のドームが輝くアンヴァリッドへ向かうエスプラナードがピットになり、11チームの22台のフォーミュラEマシンが並んだ。参加チームは、2014年に優勝したアウディスポーツ・アプト・シェフラー、今シーズンから参加のBMW i アンドレッティ・モータースポーツ、中国に本拠地を持つDS テチーター、イギリスの有名パイロット、サム・バードが参加のエンビジョン・ヴァージン・レーシング、アメリカのメディア実業家でインディーカー・レースの共同オーナーでもあるジェイ・ピンスキーが設立したジェオックス・ドラゴン、DTM(ドイツツーリングカー選手権)での経験を生かし今シーズンから挑戦するHWAレースラブ、唯一インドに本拠地を持つマヒンドラ・レーシング、中国とイギリスの英知を持つNIOフォーミュラEチーム、2016年からフォーミュラEに取り組むイギリスのパナソニック・ジャガー・レーシング、フランス生まれモナコ育ちのヴェンチュリ・フォーミュラEチーム、日本からも、第一シーズンから参加のルノーのパートナーとして参加していたダムスをベースに、EV業界で世界リーダーの地位を得たい日産eダムスが参加。ちなみに、ホンダも近い将来参加してくるという噂もある。

ナポレオンが眠るドームと軍事博物館や廃兵院病院などヴァリッド全体を周回するコースが用意され、クオリファイングが前日に行われた。結果、オリビエ・ロウランドがポールポジションを獲得。セバスチャン・ブミエがその背後、3番目のスターテングポジションを獲得したので、大きくポイントを稼ぎたい日産eダムス・チームだが、ほとんどのマシンは1秒以内のラップ・タイム・ラグしか無かった。マシンの性能もパイロットの腕も、レベルが揃っている様子だ。

7台のDNS(スタート時点でトラブルなどのため不走行)を除いた15台でレースが初まると残念なことに1周目で早くもオリビエ・ロウランドがクラッシュ。後に雨が降り出し、路面が濡れたため、接触やスリップでクラッシュ、リタイヤが続出、レースは一時カオス状態になってしまったが、結果、危険の回避に成功し、順調に走行できたロビン・フラインス(エンビジョン・ヴァージン・レーシング)にチェッカーフラッグが振られた。

今回の獲得ポイントを加算したパリE-Prixの終了段階で、ロビン・フラインスは最大の26ポイント加算の合計81となり総合でも第一位。二位でゴールしたアンドレ・ロッテラー(DS テチーター)は18ポイント加算で80ポイント、総合第二位。その差はたった1ポイントだ。三位以下十位までの完走者にも、15から1ポイントが加算されるので、2018-2019年第5シーズン、残るラウンド +++  モナコ(5月11日)+++ベルリン(5月25日)+++ベルン(6月22日)、そして+++ニューヨークでの二日連続ラウンド (7月13日、 7月 14日) 次第で、誰が、どのチームが優勝してもおかしくない状態だ。

発足当時、フォーミュラ・レース関係者、スター・パイロット達が全く興味を示さなかった、このフォーミュラE。現在はエンビジョン・ヴァージン・レーシングを持つ名物社長、サー・リチャード・チャールズ・ニコラス・ブランソン氏は『2020年には、このレースがF1に替る』と予想していたそうだが・・・F1に替わるもう少し時間がかかりそうな気配だ。

しかし、自動車スポーツの一つの形として、今後も注目に値するには違いないだろうし、参画するEV自動車メーカーも増え、性能も安全性もアップするに違いない。もっと多くのメディアが注目するとともに、ファンも増加し、ファンブーストのようにファンが参加する楽しみも増えて行くだろう。市街地でも楽しめるモータースポーツ業界は、EV技術によって、これから大きく成長しそうだ。

 

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