パリからセーヌ川を下ったノルマンディー地方の村、ジベルニーには、印象派の巨匠、モネが睡蓮など数々の名画を残した花園と日本橋と呼ばれる弧を描いた橋がかかる池があり、夏には絵の如く、睡蓮が咲き誇る。現在はモネ財団が所有する人気観光スポットだ。モネはここに、1883年から亡くなる1926年まで住んでいた。その間、内外からモネを慕う画家たち、特にアメリカ人が多く集まってきており、ジヴェルニーは国際色溢れるアーティスト村になっていた。アメリカ人画家の作品のコレクターだった実業家、ダニエル・テラ氏が設立したテラ財団が、ジベルニー・アメリカン・アート美術館を設立したのは1992年。
その後、テラ財団はジベルニーからパリに本拠地を移したので閉館していた美術館は2009年、地方自治体とオルセー美術館が管理する、ジベルニー印象派美術館として再スタートを切った。
この5月初旬の週末は10周年を記念し、美術館の無料見学、子供用アトリエやガイド付き鑑賞ツアー、コンサートなども併せて開催され、たくさんの人で賑わった。そして、印象派好き、南仏好き、ノルマンディー好きには大変興味深い《モネ、オービュルタン、芸術の出会い》展が、2019年7月14日まで開催中だ。
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1883年、モネはルノワールと初めて地中海沿岸へ行き、眩しい太陽が降り注ぐ海辺やカラフルな街並みに魅了される。1889年にはアンティーブで描かれた22点のシリーズ作品が、印象派を育てたことで有名な美術商、ジョルジュ・プティの画廊で、ロダンとの2人展で発表された。
ジャン=フランシス・オービュルタンは、1866年、ロレーヌ地方の建築家一家に生まれ、1888年にはパリのエコール・デ・ボザールに入学する。印象派、象徴主義、総合主義、ジャポニズムなどの時代だ。装飾画家として活躍した彼は、モネを慕い、ノルマンディー地方の景勝地、南仏、ブレターニュ地方などで、光り輝く海や岩、波や雲をプラン・エール(屋外制作)した。1894年から1905年に地中海のポルケロール島にしばしば滞在し、見え隠れする岩と海辺の風景画に神話のイメージ溢れる古典主義を思わせる、海水浴をする女たちを配置した作品などを生み出した。 眩しい海とゴツゴツと岩が重なる海岸のような、自然な景観を好んでモチーフにした彼は、モネの作品を追ってベル=イル島にも行く。1886年約3ヶ月の間に描いた岩のある風景を描いたモネに挑戦するかのように、1894年、1895年にモネと同じ風景を描く。
モネが初めてエトルタにやってきたのは1864年。それから約20年後に何度も滞在し、ルーアンの大聖堂のシリーズのように、時間とともに変化するエトルタの風景を80枚制作している。1883年に描いた『エトルタ、日の入り』では、印象派という名前の由来となった『印象、日の出』のようにオレンジ色がかった太陽が灰色がかった空に溶けていく様子が描かれている。
エトルタはそのユニークな景観で有名なノルマンディーの海辺の漁村で、白く輝く石灰石の岩壁が切り立つ間に、波が寄せるたび可愛い音を立てる小石の浜が弧を描いており、アルセーヌ・ルパンの『奇巌城』の舞台となった円錐形に突き出るエギーユ岩のあるアヴァルの門と呼ばれる断崖がある。このアーチとエギーユ岩が重なって見える絶景は画家でなくとも心引かれる絶景だ。浜のもう一方に突き出る部分はアモンの門と呼ばれ、こちらも波でトンネルのようになったマンヌポルトがある。これらの風景は岩や断崖が重なる具合で表情を変え、海は天気によって石灰質で白く濁ったようにも見える。
ノルマンディー地方には家族とともにしばしば滞在したオービュルタンも、1880年半ばエトルタに訪れる。彼は1898年から1902年にかけて、水彩やグアッシュの作品を多く残している。『エトルタの漁船』は、木製の漁船が並んで着岸する様子を大胆に描き、画面奥にオレンジ色に光るアモンの門が見える風景で、浮世絵のような大胆な構図だ。
少しずつトーンを変えながら色を重ねるモネの筆使いは、ある種のリアリズムを醸し出す奥行き、臨場感を感じる。オービュルタンは空気の質感をも表現するような色で、ナビ派や、浮世絵など日本の芸術に影響を受けたジャポニズムとも比較される作品も多い。ぜひ、《モネ、オービュルタン、芸術の出会い》展で、同じ場所で描かれた二人の作品を並べて鑑賞してみよう。
なお、同美術館では、《10年のコレクション展》も同時開催(こちらは11月11日まで)。モネ、モーリス・ドニ、ポール・シニャック、ジベルニーに住んだアメリカ人画家ジョン・レスリー・ブレックのほか、ネット上のクラウドファウンディングで募金を集めて購入に至ったギュスターブ・カイユボットの『マーガレット』の四部作、同美術館で展示された平松礼二から寄贈されたモネへのオマージュを捧げたモダン琳派の3作品などを展示している。
INFORMATION 公式ホームページ ジベルニー印象派美術館 https://www.mdig.fr

花が咲き乱れる庭を散策する楽しみもある(c)Tomoko FREDERIX All rights reserved 2019

カイユボットの『マーガレットの花壇』は同美術館がクラウドファウンディングで購入資金を集めた(c)Tomoko FREDERIX All rights reserved 2019

《10年のコレクション展》も同時開催(こちらは11月11日まで)(c)Tomoko FREDERIX All rights reserved 2019

ジャン=フランシス・オービュルタン 『ポルケロール、ブレガンソネの入り江(1894)』

《モネ、オービュルタン、芸術の出会い》展が、2019年7月14日まで開催中(c)Tomoko FREDERIX All rights reserved 2019

開館10周年を迎えたジベルニー印象派美術館(c)Tomoko FREDERIX All rights reserved 2019