2019年はマチス生誕150年 ! 光と陰の真髄をヴィヴィッドな色で大胆に描いた フォーヴ派の代表画家、 ニースのマチス美術館

 南仏、コート・ダジュールと呼ばれる地中海にニースは、19世紀に創られたプロムナード・デ・ザングレ (=英国人の散歩道) という大通りが、海岸沿いに緩やかな弧を描いている。トレードマークのヤシの木が並び、ビーチチェアやレストランが連なるビーチの向かいは、ずらりとパラス級のホテルやカジノが並んでいる。

 ニースの北には1世紀頃ガロ・ローマ人が住んでいたシミエの丘があり、中世時代に建てられたシミエ・フランシスコ修道院がある。17世紀には、古代アリーナ遺跡を望む場所にニースの執政がジェノバ風の豪邸を建築。赤茶色の壁と黄色かかったクリーム色の窓枠が青空に映えるこの屋敷は、1950年にニース市所有となり、1963年から(開館当時は考古学博物館も併設)マチス美術館として一般に開放されている。

アンリ・マチスは1869年、フランス北部の地方都市ル・カトー・カンブレジで生まれた。法律を学ぶためパリに引っ越すが、入院中に絵を描く喜びに目覚める。パリのボザール芸術学校の入学試験の準備のためにアカデミー・ジュリアンに通うが、ボザールへ入学は叶わなかった。

だが、ボザールで指導にあたる象徴主義の画家、ギュスターブ・モローは、マチスの才能に目を付け、ボザール内のアトリエに呼んでくれた。マチスはモローの指導で制作活動を続け、ジョルジュ・ルオーやシャルル・カモワン、アンリ・マンギャンと画学生時代を送った。

1898年、後に彼の代表作となる『緑の鼻筋のマティス夫人 (1905年、コペンハーゲン国立美術館蔵) 』のモデルとなったアメリーと結婚。彫刻を習いにいった先で、アンドレ・ドランと会ったのはこの翌年だ。そして、ポール・シニャックが指揮をとるサロン・デ・ザンデパンダンに作品を発表したのは1901年で、モーリス・ド・ヴラマンクと出会ったのもこの頃だ。

シニャックから大きな影響を受けた点描画の技法で描かれ、1905年の同サロン参加の『豪奢、静寂、逸楽(1904年、オルセー美術館蔵)』はシニャックが購入した。そして、秋のサロン・ドートンヌには、アンドレ・ドラン、オトン・フリエス、アンリ・マンギャン、アルベール・マルケ、ジョルジュ・ルオー、モーリス・ド・ヴラマンクなどと『フォーヴ派』と名付けた展示室を設け、『帽子の女(1905年、サンフランシスコ近代美術館蔵)』を展示した。

この時マチスはシニャックに、『人生で初めて、自分の作品を発表することに満足しています。僕の作品は大切な作品ではないかもしれないけど、とにかく自分の感情を純粋に発表するという点で、展示される価値はあると信じています』と、謙虚な自賛を書いて送っている。点描画を得意とするシニャックから得た色への理解を元に、ショッキングなほど大胆に、形より色で構成した自分の絵について、師の理解を求めた文章とも受け取れる。

後にフォーヴ派を代表するポートレートとなる『帽子の女』は、先見の明を持ちエコール・ド・パリに注目していたアメリカ人有名コレクター、レオ・ステーンに450フランで購入された。若く、エネルギーに溢れるマチスを気に入った同氏は、翌年『生きる喜び(1905年、バーンズ・コレクション蔵)』も購入している。この国際的な大成功を、パリの画商、ベルト・ウェイルは、『マチスのキャリアにおいて、最も勢いよくサクセスを手に入れた年』と回想している。

そして、ドガ、ゴッホ、セザンヌ、モネ、ゴーギャン、シスレーらの作品を購入する有名コレクターでもあるモスクワの富豪、セルゲイ・シュチューキンが自宅の室内装飾、『ダンス』と『音楽』をマチスにオーダーしたのは1909年だった。

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マチスが初めてニースに来て、ボー・リヴァージュ・ホテルに滞在したのは1916年。地中海の光で溢れるニースを大変気に入った彼は、この後何度もニースに滞在する。1922年頃からオリエンタリズムを取り入れたかのような明るい色のシリーズ『オダリスク』も制作した。

1931年、アメリカのバーンズ財団を持つアルバート・バーンズは、当時破格の三万ドルでマチスに壁画『ダンス2』をオーダーする。この制作過程で、マチスはグアッシュで色を付けた紙を切り取って構成を練る方法を使い出した。

1938年、シミエ地区にあるホテル・レジーナの一部をアトリエに改造し滞在していたが、1943年、戦火を逃れるために山あいの小さな村、ヴァンスに住まいを移した。この頃、挿絵本『ジャズ』のため、切り絵20点を制作(1947年にステンシル印刷で配本)。1948年にはヴァンスのロザリオ礼拝堂の装飾の制作を始める(現地完了は1951年)。

絵画よりエッジが鋭く、カラフルでリズミカルな切り絵はマチスのシグナチュアとなり、ニース、パリでの展示会はどこも大好評。1951年にはニューヨークのモダンアート美術館でも回顧展が催されるなど、揺るぎないトップスターアーテイストとなる。

戦争が終わり、1949年からホテル・レジーナに戻り『青いヌード』シリーズなどの切り絵の作品など制作を続ける。1953年、当時構想中だったニース市立マチス博物館に、多数の作品を寄付をした翌年、天命を全うしたマチスは、シミエの丘に永眠している。

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1960年以降、マチス夫人や相続人からも寄付を得たニース市立マチス美術館のコレクションは、世界トップレベル。現在では、切り絵を含む絵画68点、200以上のデッサン、200以上の版画、彫刻57点や写真、制作や日常に使った備品やシルクスクリーン、ステンドグラスなど、見応えのある作品群を所蔵している。

入館すると同時に、410cm x 870 cm の『花と果実』で歓迎される。これは1952年にロス・アンジェルスにある豪邸のパティオを飾るタイルに施される壁画用の切り絵だ。展示経路は、若きマチスのアカデミックな絵画から、フォーブ派の作風へ、そして、切り絵と、それらを元にした装飾、版画など、 彼のバイオグラフィーに添って鑑賞できるようになっている。

まず、ギュスターブ・モローのアトリエに通っていたアカデミックな絵画や模写、その後に画家仲間と構築したフォーブ派絵画の展示室が。そして、アフリカやビザンチン、イスラムなど異文化との交流 、ニースのマチス ・・・と続く。子供用ワークショップのスペース « マチスのプチ・アカデミー» マチスの芸術や芸術論の資料の展示の後は、スペース感覚をテーマにした展示室に、アルバート・バーンズがオーダーした壁画のための原画もある。その後、『ジャズ』シリーズ、『ヴァンスの礼拝堂』展示室へと続き、最後は、白い雲に泳ぐ人がブルーで表現されたセラミックの壁画『プール(1952-53年作)』が鑑賞できる。

マチス美術館の裏の古代アリーナ遺跡、向かいのオリーブの木が並ぶ公園、その先には、見晴らしの良い公園とマチスのお墓もあるシミエ・フランシスコ修道院、ニース市街へ降りていく間に、マチスがアトリエに使っていたホテル・レジーナや、シャガール美術館もあるので、ニースを訪問する際には、是非シミエの丘で一日過ごすことをおすすめしたい。

ちなみに、ヴァンスはニースからバス400番か94番で約1時間ほど、あるいはタクシーで約30分のあたりにある人気の鷹巣村。壁画とステンドグラス、礼拝衣を彼がデザインしたロザリオ礼拝堂 (11月中旬から12月中旬、日・月曜、祝日は閉堂) も訪問してみよう。

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ニース市立マチス美術館   https://www.musee-matisse-nice.org

ル・カトー・カンブレジのマチス美術館 https://museematisse.fr

ヴァンス観光局  http://www.vence-tourisme.com

Musée d'Henri Matisse

古代アリーナ遺跡を望む豪邸を使ったニース私立マチス美術館©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2019

lectrice à la table jaune 1944

1944年作、黄色いテーブルで読書をする女 / ニース市立マチス美術館蔵©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2019

Odalisque au coffret rouge 1927

1927年作、赤い子箱のオダリスク 部分 / ニース市立マチス美術館蔵©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2019

détail - Portrait d' Henri Matisse 1905 André Dorain

アンドレ・ドラン1905年作、アンリ・マチスの肖像画 部分/ ニース市立マチス美術館蔵©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2019

salle du JAZZ au musée H Matisse

ニース市立マチス美術館の『JAZZ』展示室©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2019

Fleurs et fruits 1952-53

ニース市立マチス美術館内 1952-53年作『花と果実』展示ホール ©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2019

jazz

détail- La Picine cérémique

ニース市立マチス美術館内 プール(セラミック) 部分©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2019

 

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シミエ・フランシスコ修道院教会内部の美しい天井©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2019