パリの新しいアート・スポット ! アニエス・ベーの珠玉のプライベート・コレクションが鑑賞できる ラ・ファブ LA FAB 誕生 !

コンテンポラリー・アートのコレクターとしても有名なファッション・デザイナー、アニエス・ベーが、2020年2月にプライベートコレクションを展示する美術館、ラ・ファブをパリ13区に開館し、パリの新しいランドマークを増やした。

ELLE誌のスタイリストだったアニエス・トゥルブレ氏は、1975年 « アニエス・ベー »ブランドを立ち上げ、レ・アール界隈にあるジュール通りの店で自分で着たい服を製作し、販売し始めた。認知度も世界的になったアニエス・ベーは、1984年東京、青山にも進出。フランスで、日本で、世界中で、世代を超えて、時代を超えて着られるシンプルなTシャツやスナップボタンのカーディガンが、フレンチカジュアルに欠かせないベーシック・アイテムとして大ヒットした。

アニエスが、自分の好きなアートを皆で眺められるように、とギャラリー・デュ・ジュールを開いたのは1984年。アニエス好みのクールな写真やコンテンポラリーアートが鑑賞でき、アーティストと交流できる場として、”イン”な場所になった。

アニエスはモード界にとどまらず、社会的、人道的チャリティーへのサポートや寄付金のためのグッズの販売、バーゲンイベントを1980年代からヒューマニティーな活動をしている方としても有名だ。エイズ患者のための寄付金を得るための赤いマフラー、ホームレスを無くす活動をしているピエール神父財団に寄付するためのTシャツ、地中海難民を救う団体へ寄付金を得るためのマフラー販売なども、その一環だ。 « サラエヴォのハート »は、1993年、旧ユーゴスラビア紛争の中、パリから2時間ほどしか離れていないサラエヴォ包囲戦にショックを受けたアニエスが、若い世代への教育を通した復興活動に寄付をするアイテムに使われるモチーフとして産まれた。

環境問題にも敏感で、海洋汚染の調査船、タラ号プロジェクトへの援助は2003年から始まっている。2006年からは自社の経営を環境的に見直し、全ての製品をできる限りフランスで生産し、温暖化効果ガス排出量の制限やゴミ削減、ラッピングバッグも環境に優しい材質に変更するなど変化し続けている。

アニエスのアートコレクションはギャラリー・デュ・ジュールに収まりきれるものではなくなり、今では現代アート界の最高峰に君臨するレベルとなった。

写真のコレクションは特に有名で、2000年にパリにある国立写真センターで初めて発表。2002年にはパリ郊外のアートパビリオンで展示され、2008年には、現代写真美術館、℅ ベルリンで200点あまりの展示会が開催された。欧州でも最も注目されるこの美術館での企画展は、アニエスの写真コレクションが国際的に高い評価を獲得した証と言えるだろう。2004年には写真だけでなく、デッサンや絵画、立体作品やフィルムなど、あらゆるジャンルのアートを集め、トゥールーズのレ・ザバトワール美術館で展示。2015年のリール・メトロポール美術館LAMでの展示会では、アニエスのコレクションの代表作を集め、コンテンポラリー・アートで時代を振り返るキュレーションで大成功した。2017年にパリの移民歴史博物館で開催された『ヴィーヴル(生きる)!』展では、移民問題を抱えたフランスで、人間愛、人生、アイデンティティーを考えさせられる写真100点あまりが展示され感動を呼んだ。また、アヴィニヨンにある現代美術館、ランベール・コレクションでの企画展では、 彼女の写真コレクション5000点の中から、300点のポートレート写真をセレクト。芸術へのパッションと確かな理解力、そしてコンテンポラリーアートへの先見の眼を持つアニエスの、アート・コレクターとしての才覚を見せつけた。

2009年からは、アニエス・トロブレ通称アニエス・べー公益財団を設立し、公平な社会と、環境保護、そして彼女自身の文化と創造のための継続的投資を目的にした活動をしている。アニエスの貴重なプライベート・コレクションを公開し、継承していくのも、財団の役割の一つだ。

そして財団のヘッドクオーター、2020年2月、1400m2の面積を持つアニエス・ベー美術館と言っても過言ではない『ラ・ファブ』がオープンした。しかも、スタートアップを企てる若者が集まり、変貌していくパリを象徴する13区の集中開発地域、パリ・リヴ・ゴーシュ(フランソワ・ミッテラン国立図書館界隈)にあるジャン・ミッシェル・バスキエ広場という最高にマッチしたアドレスを持つ。眩しいほど白亜の建物には、住宅事情の改良を目指すピエール神父の意思を継承するかのごとく、公営住宅も組み込んである。

この中にある800m2の広々としたスペースを使った、年3回の企画展が予定されている。2階には190m2ギャルリー・デュ・ジュールのスペースもあり、こちらにローテーションを組んで展示される若いアーティストの作品は全て購入可能だ。ブックショップのコーナーは150m2。アニエスに招待されたいくつかの出版社が自社のセレクションを販売できるようになっている。

『ラ・ファブ』のこけら落とし企画展は『大胆な人』・・・このテーマに込められた想いは、何?

そんな質問にアニエスは、La Fab(ラ・ファブ)の由来から語り始めた。

『まず・・La Fab(ラ・ファブ)って・・・ファクトリーのファブ、ファブリックのファブ・・・とにかく « faire する、させる» って感覚ね。分からせる、好きにさせる、進める、細心に触れさせる、みる人の知性に触れさせる、聞かせる、気付かせる、そして、驚かせる、って願いが込められてるの。

私はいつも、芸術の « 大胆さ »に驚嘆するの。特に大胆な画家の一人、カラヴァッジョ(注・バロック期のイタリア画家)は、いつも私を脱帽させるわ。どんな形の芸術でも、私に感受性がある、ってことを気付かせてくれる部分は、この« 大胆さ»なのよ。

« 大胆である »ってことは、 « 勇気がある »ってことじゃない・・・そうじゃない”何か” !   自分自身では確信しきれないけど、あえて挑戦をする・・・ってことじゃないかな。例えば、自信過剰過ぎるとうまく行かないかもしれないし、自分が玉砕するだろう確固たる壁の前にいる自分に気付かずにいるのかもしれないから、私はむしろ、疑うほうが好き。一番大切なのは、作品のパワー、美しさ、そして、それは、« 値段 »じゃないのよ。

だから、自分を疑いつつも、希望に満ち溢れるアーティスト・・・ほとんどの場合、恥ずかしがり屋で、賞賛されることに慣れていないような若いアーティストを発掘するのが好きなの。・・・・   (注 プレス発表資料より筆者が口語訳) 

この企画展会場には、90人による 150点の « 大胆な »アートがセレクトされている。キース・ヘリング、ジャン・ミッシェル・バスキエ、アンディー・ウォーホル、ギルバート&ジョージ、ルイーズ・ブルジョワ、デニス・ホッパー、ロバート・メイプルソープ、クロード・レヴェック、ラファエル・グレイ、アリス・アンダーソン・・・など、コンテンポラリーの超人気作家に加え、マン・レイ、アレキサンドル・カルデールなどモダン・アートの巨匠の作品もある。

アニエス・トゥルブレ氏は『アニエス・ベーの創設者、成功したファッションクリエーター』より、『20世紀生まれのフランス人アート・コレクター』、そして何より、『あらゆる分野で人道的活動を長年にわたり実践した女性、波乱な人生を生き抜いた真の実業家』として、歴史に名を残すことになるだろう。

そんな彼女が創った『ラ・ファブ』には、社会的隔たりなく、アートをこよなく愛する人が集まるパリのランドマークとなるだろう。

『ラ・ファブ』公式サイト https://la-fab.com/

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