祝 ! 5月11日ロックダウン解除が始まったフランス ! アートシーンは、プチ美術館から再スタート ! インスティチュート・ジャコメッティ

55日続いたロックダウンが解除されたフランスで、

緩やかな経済活動復帰が始まった(2020年5月14日現在)

2019年末に中国で新型コロナウィルス感染症=COVID-19 が発症した後、2月に入り、中国とコラボするモード産業企業が特に多いイタリア北部のロンバルディア地方で感染症が蔓延。イタリアを追う形で陸続きのフランスでも感染者、死亡者がうなぎのぼりとなった。

5月13日、フランスでは14万人が感染、死亡者は2万7000人を超えたところだが、入院患者数は減ってきており、『衛生緊急事態宣言』は7月10日まで(5月14日現在)と発表しながらも、仏政府は、55日続いたロックダウンを5月11日に解除した。

これにより、それまで携帯が必要だった外出証明書が免除され(ただしイル・ド・フランス圏内のラッシュアワーに公共交通機関を使用する場合は、雇用主発行の就労証明書の携帯が必要)、多数の職場、食料品を扱う以外の店、B&Bでも、小規模なところから営業が許可されてきている。

ただし、大勢の人が集まるギャラリー・ラファイエットなどの百貨店やフォーラム・デ・アールのようなショッピング・モール、ホテルは、この非常事態が終着するするまで開店されず、美術館や観光スポットも、然り。

もちろん、マスク着用を推奨し、人と接触は控えるようにと自粛喚起は繰り返され、特に、公共交通機関でのマスク着用は必須、車内や学校内でのソーシャルディスタンス(フランスでは1メートル、事務所などでは一人につき4m2確保)など、新たに細かい衛生規制が守られることが前提になっている。

3月より夏にかけて企画されていた芸術祭やフェスティバル、国際イベントがことごとく延期、中止されており、文化活動、観光産業だけでなく、すべての分野において、前代未聞の恐慌、国際的に経済の激変が予想される、大変不安な時代に突入だ。

そんな中、細かい衛生条件をインテグレートした形で、プライベートな財団、協会が運営するプチ美術館の、再開館が次々に発表されている。

パリにあるアルベルト・ジャコメッティ(1901~66)の作品を集めるインスティチュート・ジャコメッティも、その一つ。5月15日から、完全予約制(その他、入館に関する異例の条件は後述)で一般公開が再開するので、同美術館の魅力をご紹介しよう。(2019年10月撮影)

モンパルナス界隈に生きたアルベルト・ジャコメッティ

スイスで産まれたアルベルト・ジャコメッティがパリにやってきたのは、二十歳の頃。エコール・ド・パリが開花したモンパルナス界隈にある、アカデミー・ド・ラ・ショーミエールの、ブールデルが指導する彫刻クラスに通った。1926年から死去する1965年まで、メザニンのある小さなアトリエを借りて寝泊まりしていた。ジャコメッティはイポリット・マンドロン通りにあった24m2で、 疲れ眠りこけるまで彫刻を繰り返し制作したという。

ジャコメッティ財団が運営するインスティチュート・ジャコメッティに足を踏み入れる途端、このアトリエを再現した “ジャコメッティ・ワールド” で歓迎される。作品を鑑賞する前にまず、ここをじっくりと観察しておこう。

デッサンが重ねられた壁、石膏だらけの机、椅子、吸い殻が載った灰皿、安ワインが入っていたと思しき空き瓶、質素なベットに放られたコート、散らかった絵の具や道具類・・・そして大小約70の作品・・・室内にこもる芸術家の苦悩や葛藤が伝わってくる。ここでじっと待てば、ジャコメッティがドアを開けて帰ってきそうな気配さえする。

細長い体で、人の本質、人の持つ力強さを表現

パリに来たばかりのジャコメッティが師と選んだのは、20世紀を代表する彫刻家、ブールデル。重々しい、しっかりとした体で、人間の誇りを表現した堂々とした作品が多い。が、アフリカやエジプト、シュールリアリズムに影響されたジャコメッティが追求したものは、具象的な外観より、本質、真髄に迫る、抽象的な “人の姿” だった。

直線と曲線を重ねながらデッサンを繰り返し、儚くも力強い “人”の存在を追求し、細長く強調された体で立体化することを繰り返した。こうして産まれた直立、あるいは歩く姿の大小の彫刻は、どれも、一度見たら忘れられないインパクトと普遍な芸術性を持っている。

インスティチュート・ジャコメッティでは、ジャコメッティが自分のスタイルを見つけて行った過程を考察できる5000店以上のデッサン、若い頃の彫刻なども、常設展示しており、大変興味深い。

企画展は、年に一、二回用意される。この2020年6月21日までは、『失われた作品の捜索』を公開中。彫刻プロジェクトとしての記録やデッサン、出来上がった作品の写った写真が残っているものの、作品自体が現存しない1920から1935年の彫刻にフォーカスを当てる。

作品が現存しない理由は、多くの彫刻は石膏と針金でつくったため、壊れやすかったという理由ももちろんあるが、若いジャコメッティが、出来上がりを不満に思い、自主的に壊したことも大いに考えられる。あるいは無名の頃に、誰かに買われた作品が、その後、他の人の手に渡り、ジャコメッティとは知らず、いつの間にか紛失、破棄された可能性も無きにしもあらず・・・だ。

展示の中には、作品が写り込んだ写真やデッサン、彫刻のための習作のほか、ドキュメントにあったプロジェクトを再現した『静かな鳥(1930-1933)』も。有名な『歩く女』が完成する前に作られ自身によって破壊されたと思われる『マヌカン(1932-1933)』の写真なども展示されている。私たちが今、鑑賞できる作品のルーツ、発想の起源をたどり、アーティストの成長過程が垣間見られるところが魅力だ。

ちなみに、彼の作品で『Yanaihara』とタイトルが付いていたなら、日本人哲学家の矢内原伊作(1918~89)氏をモデルしたもの。サルトルやカミュに影響されパリに滞在していた矢内原氏は、ジャコメッティのお気に入りのモデルの一人だった。のちにジャコメッティとの交友を『ジャコメッティとともに(1969年、筑摩書房)』という著書も出版されている。

美しいアール・デコ様式の建物や装飾も要チェック

インスティチュート・ジャコメッティは、彼のアトリエがあったイポリット・マンドロン通りから1キロほど離れた場所、コンテンポラリー・アートの展示で有名なカルティエ財団からすぐ、ヴィクトル・シュルシェール通りにある。外観から内部、細部に至るまでアール・デコの宝石箱のような建物は、20世紀初頭に活躍した木工芸家で装飾家、建築家でもあったポール・フォロ(1877-1941) が手がけ、自らのショールームとして使っていた。

美しい曲線と、長方形が重なるような直線を生かした柱と天井、配色がスタイリッシュなモザイク、パステル調の色彩を使って描かれた花のモチーフ・・・明るく広々とした350m2のスペースで、ジャコメッティのモノトーンの作品が、一際映えるような建物だ。

さて、入館に関する異例の条件とは・・・

・入場券はサイトで前売りのみ(遅れて到着した場合の入場券は無効。いかなる場合も払い戻し、交換なし)木曜から日曜の11~17時の間で、日時を選択し、完全予約制

https://www.fondation-giacometti.fr

・Eチケットはスマホに入れて携帯して、時間通りに来館してください。

・館内では最低1.5mのソーシャルディスタンスを厳守してください。

・マスク着用で来館してください。

・来館時、両手を消毒してください。

・くしゃみや咳をする場合、肘を曲げた形で顔を覆ってください。

・館内のものに触れないでください。

・当館のスタッフの指示に従ってください。

・当館のロッカーとトイレは使用禁止です。

・ブックショップでは、クレジットカードによる支払いのみ。

・ご案内リーフレットはあらかじめ、サイトからダウンロードしていただくか、当館に展示するQRコードからダウンロードしていただきます。当館に備え置きはいたしません。

 

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ロックダウンが解除されても、フランスではコロナ第二波が懸念される。油断は禁物だが、こじんまりとした、プライベートなプチ美術館で、アートを楽しむ幸福を再度、嚙みしめよう。