【VR/360°コンテンツ】パリジャンの避暑地ドーヴィルに待望のオープン ! 宗教遺産を利用した総合文化センター / レ・フランシスカン・ドーヴィル

パリジャンが大好きなノルマンディーの避暑地、

ドーヴィル

ナポレオン三世の異父弟、モルニー公爵は、19世紀ドーヴィルを保養地として開発を始めた。1863年にパリと鉄道で結ばれるや否や、教会より一年早く競馬場を建設。この「パリから列車で6時間(ちなみに現在の所要時間は、パリのサン・ラザール駅から約2時間半)」のビーチに、上流階級、著名人がこぞって押し寄せ、裕福層はヴィラと呼ばれる大邸宅を続々と建設していった。

 20世紀に入り、カジノ、豪奢なアングロ・ノルマン式建築の高級ホテルも開業し、ドーヴィルは « 狂乱の時代 » の寵児となる。1913年にココ・シャネルが第一号店を出店、エルメスほかお洒落なブティックが並び、ファッショナブル・ピープルで溢れるドーヴィルは、「パリ21区」とも呼ばれている。1923年、女性も砂に足を取られず散歩できる板張りのプロムナード « レ・プランシャ »がビーチに登場。今では、1975年のアメリカ映画祭発足以来、映画スターの名前が書き加えられるビーチキャビンの仕切りに沿って  « レ・プランシャ »は約650メートルに及ぶ。ここで撮影された映画「男と女(1966年、クロード・ルルーシュ監督)」の、ダバダバダ、ダバダバダ🎵と、テーマ音楽が流れるロマンチックなシーンは、一度見たら忘れられない。

荒廃していた宗教遺産を使った文化施設の誕生

そこは、19世紀末期から140年の間、フランシスコ会修道女によって孤児院、修道院、病院(後のサンジョゼフ医院)、女性のための家事教育施設(後の職業学校)を営む修道院だった。歴史と共に歩んできたが、建物の老朽化に対し、必要な修復費用を捻出することができなくなった。そのため修道院は、2012年、美術館を併設する劇場兼メディアテックのプロジェクトを立ち上げていたドーヴィル市に建物の売却を申し出た。

 4百万ユーロで市が購入することになり、市議会で文化施設の創設予算承認が採決されたところで、建築プロジェクト競争入札が公示された。180の案の中から、パリのコンコルド広場にある18世紀の国の歴史遺産、オテル・ド・ラ・マリーヌの修復も手がけたモアティー・リヴィエール・エージェンシーが選ばれ、2018年に工事が開始された。2020年に予定されていた一般公開は、パンデミックの影響で遅れさせられたが、今年5月、一般客を拍手と感涙で歓迎するスタッフの姿がやっと見られた。

  クリーム色のレンガの建物は、19世紀のマテリアルを忠実に使って再現された。修道院に必ず存在する回廊は、四角い中庭の周りを美しいアーチを描くアーケード。修道士が瞑想する場所だ。このスプリチュアルな場所が、新生レ・フランシスカンでも施設の中心だ。

 元々は中庭だった400m2の新生「回廊」は、新しい天井が作られ、大きな雲のようなオブジェで覆われている。この14285本の透明チューブでできた巨大なシャンデリアは、雲のように日差しを和らげ、心地よい光を届けてくれるのだ。そして、時間帯、天候によって、光の表情も千差万別。誰もが立ち止まって、光の変化を鑑賞することだろう。ホテルのロビーのようだが、同時に図書館の一部。新聞、雑誌などの定期刊行物を自由に閲覧できるよう、ソファなどが置かれている。同時に各種イベントや、プライベートイベント(10人から1270人迄)を催せるレンタル・スペースにもなっている。

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「回廊」に隣接する礼拝堂は、そのまま「チャペル(礼拝堂)」と呼ばれる253m2、230席のオーディオトリウムになった。すでにコンサートや講演などの企画が随時催されている。壁面のステンドグラスに描かれたアッシジの聖フランソワの物語はそのまま残されているが、公演時には採光を遮るためのシャッターを下すのだそうだ。フレキシブルな舞台は幅9.5mx6~8m、横長のベンチが奥の方へ段々高くなっていく座席は、ボタン一つで蛇腹のように奥にたためる仕組みになっていて、最大26メートルのフラット・スペースにも変化。観客席のいらない立食パーティーなど(400人迄)にもレンタルすることが可能だそうだ。

階上は、廊下のように続く図書館スペース。時折アーチ型の窓から「回廊」部分を見下ろしながら、合計10万冊の書籍や資料、1万枚のCD、4千枚のDVDの閲覧が楽しめる。テーマ別に分かれており、街の歴史や文化も学べる “ドーヴィル” コーナー、歴史ある競馬場と高級サラブレッドの1歳馬オークションでも世界的に有名なドーヴィルならではの “馬” コーナー、枚挙ないスターの滞在記録や写真、9月のアメリカ映画祭開催地に因んだ “演劇・映画” コーナー、子供用 “ヤング” コーナー、タラソテラピーやヨット、ゴルフもドーヴィル市民のライフスタイル全般は “アート・ド・ヴィーブル(暮らしの芸術)”コーナーで。本、映像資料などを自由に選び、心地よい椅子やソファ、一部はベッドに寝そべって( ! )閲覧が可能だ。

 ドーヴィルでは、2010年以来「プランシュ・コンタクト写真フェスティヴァル」を秋から冬に開催しており、その都度市が作品を購入している。それらの写真プリントも、ここで循環展示される。歴史的な資料や写真を含めて、デジタル化したものは、自由に検索できる大型タッチパネルが設置されていた。このパネルを自由にタッチして、各自が “お気に入り” としてマークできる。しかもそれらを “お気に入りシリーズ” とし「発表」クリックすると、館内に11箇所設置された大きなスクリーンで、一斉に放映され、館内の人と共有できる仕組みになっている。

 元々、レ・フランシスカンの出発点は、地元の画家、アンドレ・ハンブルグのコレクションが市に贈呈されたのがきっかけだった。オンフルール近郊に住んだ画家、アンドレ・ハンブルグ(1909-1999)の遺族は、アンドレ・ハンブルグの作品の他、オンフルール生まれで “印象派の父” とも呼ばれるウジェーン・ブーダン、フォービズムのアンドレ・ドラン、”水の画家” と呼ばれるアルベール・マルケ、マリー・ローランサン、そしてエコール・ド・パリを代表する邦人画家、レオナール藤田など、19~20世紀の傑作ばかり約4千点を、2011年にドーヴィル市に寄付した。「レ・フランシスカンの誕生は、このコレクションを原点に、プロジェクトが生まれ、実現に至った」とドーヴィル市長のフィリップ・ノルマン氏は語る。レ・フランシスカンでは、アンドレ・ハンブルグにオマージュを捧げ、作品の展示スペースの一部を、アンドレ・ハンブルグ美術館と名付けて彼のコレクションを常設している。この他、年に二回の企画展のスペースもあり、地方の市立美術館としても、高いレベルに到達している。

 館内にはヘルシーでコンテンポラリーな料理を提供するのは、レフェクトワール(食堂)。修道女たちが食事をとっていたところで、長い大きなテーブルに向き合って食事を取るスタイルも、そのままだ。気候の良い時期には、建物の外側の芝生にテラス席ができる。

 修道院はレ・フランシスカンとして生まれ変わり、”パリ21区”と呼ばれるドーヴィルも、大人から子供まで、好奇心を持つ全ての人を迎える文化的な街に生まれ変わった。

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宗教遺産としての建築を残しつつ、明るい回廊が重ねられたような図書館コーナーがあるレ・フランシスカン・ドーヴィルの内部 Les Franciscaines Deauville ©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2021

回廊部分全体を覆うのは、チューブでできた巨大なシャンデリア レ・フランシスカン・ドーヴィルにて Les Franciscaines Deauville ©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2021
歴史ある競馬場と高級サラブレッドの1歳馬オークションでも世界的に有名なドーヴィルならではの「馬」コーナーLes Franciscaines Deauville ©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2021
フラット・スペースにもボタン一つで変化する230席のオーディオトリウム、チャペル(礼拝堂)を説明するノルマン氏Les Franciscaines Deauville ©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2021
ドーヴィルにある、ストラスブルジュ邸 ===20世紀初めに建設された豪奢なヴィラの一つで、オドレイ・トトゥ主演のフランス映画『ココ・アヴァン・シャネル(2009)』の撮影も行われた。現在はドーヴィル市が管理しており、この日は結婚披露宴が催されていた。 ©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2021
夏の風物詩、ドーヴィル結びのパラソル === 決まったオレンジ色、赤色、紺色、緑色、黄色が使われて地元の会社で制作されており「ドーヴィル結び」をほどいてパラソルを開くと、砂ほこりを避けるカーテンが降りるようになっている。 ©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2021

ドーヴィルのランドマーク、ホテル・バリエール・ル・ノルマンディー === アングロ・ノルマン式建築の五つ星ホテルの一つ。映画「男と女(1966年、クロード・ルルーシュ監督)」も撮影された。毎年9月のアメリカ映画祭開催中には、映画スターが宿泊し、メディアのインタビューも行われる。©Tomoko FREDERIX All rights reserved 2021