パリ・コンコルド広場に « ミニ・ヴェルサイユ » が出現 ‼︎ ルイ15世所縁の王室歴代調度品が鑑賞できる オテル・ド・ラ・マリーヌ

パリの中心、歴史を語るコンコルド広場

コンコルド広場は言わばパリの中心にある十字路に位置する広場で、凱旋門からまっすぐ伸びるシャンゼリゼ大通りの終点。そこからはオランジェリー美術館などがあるチュエルリー公園がセーヌ川に沿って横たわり、その公園の端はコの字に囲むルーブル美術館。この辺りは、フランスの栄華を誇る18世紀の建物がそのまま残っている。コンコルド広場の中央には、エジプトから寄贈されたオベリスクが天を突き刺すようにそびえ立ち、その脇に神話を彷彿させる「川の噴水」、「海の噴水」が美しい曲線で優雅さを加えている。建設当時は「ルイ15世広場」だったが、バスティーユ革命時に「革命広場」に。マリー・アントワネットら千人以上の人が弾頭された場所としても有名で、フランス史上最も血なまぐさい場所でもある。

1795年にローマ神話の女神コンコルディアに因み「調和、協調」を願うべく「コンコルド広場」と改名され、今では毎年、パリ祭で国賓のVIP観覧席が設置される晴れの舞台。2024年夏には史上初、オリンピック競技場にメタモルフォーズする。予定では、3X3(1チーム3人のバスケットボール)、フリースタイル・モトクロス、ブレイクダンス、スケートボードなどの競技場、またパラリンピック開催式他、エキサイティングなイベントが催されることになっている。

18世紀にタイムスリップ

コンコルド広場からセーヌ川を渡った向こう側には、新古典主義と呼ばれる古代ギリシャ文明を模したコリント式の柱が並ぶブルボン宮、現在の国民議会があり、反対側の正面に、ルイ15世は王室家具保管所を作らせた。1789年のバスティーユ革命の後、海軍参謀本部が置かれ、「オテル・ド・ラ・マリーヌ(海軍館)」なり、2015年まで海洋省が使っていたため、公開されていなかったが、国の歴史建造物になった2016年から大規模な修復作業、改修工事が始まり、2021年に延べ面積の約半分、6200m2の一般公開が始まった。

モニュメントは「オテル・ド・ラ・マリーヌ」という名前のままだが、内部はまるでシャトー(château 城)。ヴェルサイユ宮殿の小トリアノンを建築したことで有名な新古典主義のアンジュ=ジャック・ガブリエルが設計した豪奢な館には、王室家具保管所長、ピエール-エリザベス・ド・フォンタニューとマルク=アントワーヌ・ティエリー・ド・ヴィル・ダヴレーが管理人として住んでいた。18世紀後半当時の装飾技術そのままに細部に渡り修復された内装と調度品は、どれも国宝級の技術が結集されており、ミニ・ヴェルサイユ宮殿と呼んでも良いだろう。それもそのはず、1770年当時、このオテル・ド・ラ・マリーヌの建設にあたった技術士、装飾家たちは、ヴェルサイユ宮殿も担当した一流芸術家たちだからだ。

「アート・ド・ヴィーヴル」と呼ばれるフランスの生活美学をそのまま体験できるかのような、生活感溢れる展示も魅力。今も食事中のような雰囲気の食堂は、八人分のテーブルセッテイングがされており、今にもゲストがやって来るかのようだ。来客を通す部屋は白を基調にした天井から豪奢なシャンデリアが下がり、夫人寝室を始めパーソナライズされたパステルカラーの壁には、女性の心を和ませる華やかな花模様が描かれてあったり、上品な光沢の絹の織物で覆われていたりする。今さっきまで社交界の夫人の手元にあった食器や手描きの扇が、置き忘れてあるかのような錯覚に陥るほどだ。インテリア、コーディネーションのセンスも学べるチャンスで、宝石箱のように床の寄木張りフローリングの匠の技も見逃せない。中でも、マリー・アントワネットのお気に入りだったという王室御用達の木工技師ジャン・アンリ・リースネールは、寄木細工の最高峰芸術家。随所に金箔が施されたブロンズをあしらい、木工寄木細工とは思えないほど表情豊かな絵画がはめ込まれた書斎机(セクレテール)など、紛れもないマスターピースが鑑賞できる。

コンコルド広場に面している長方形の大サロンは、誰しもヴェルサイユ宮殿のガラスの間を彷彿する場所。高い天井からいくつも下がる大きなシャンデリアが、暖炉の上の大きな鏡に反映し、広間を更に長くする視覚トリック効果を加えている。光を拡散するクリスタルガラスのオーナメントが揺れるシャンデリアの修復は、18世紀の技術を現代に伝承する現役のシャンデリア専門製作所が担当したとのこと。このフランス国家の栄華の象徴のような広間では、ルイ16世が1778年アメリカとの同盟、友好条約に調印した。しかし、眼下に広がるコンコルド広場で約十年後、彼自身と王妃マリー・アントワネットがギロチン刑の露と消えることになろうとは、予想もしなかったに違いない。

臨場感あふれるサウンド・ガイド付きで見学

見学は、コンフィデントと呼ばれるセンサー付きオーディオガイド(日本語を含む9ヶ国語)を使いながら進む。流れる解説には音楽が入ったり、ドラマ風になったり…。サラウンド効果のある効果音が臨場感を高めてくれる。大サロンに設置された「踊る鏡」と題されたオブジェには、鏡に舞踏会に訪れた社交界のご婦人方の姿も浮かび上がる。チケットは2種類あり、Appartement des intendants , salons et loggia 王室官司の住居コース、あるいは、カタール王族アール・サーニー・コレクション財団の企画展コースがあり、いずれもコンコルド広場に面した眺めのSalons et loggiaサロンと大テラスにはアクセスできる。企画展は、2024年3月6日から6月30日まで「ルネサンス時代の嗜好」、そしてオリンピック終了後の秋にはフランス植民地になる前に存在したアフリカ、ベナンの「ダホメ王国文明展」を開催の予定とのこと。

併設する星付きシェフ、ジャン-フランソワ・ピエージュの地中海料理レストラン、ミモザでは、ランチ、ディナーのほか、日曜11から16時までのビュッフェ・ブランチ(110ユーロ)も人気。予約して出かけよう。( text&photo Tomoko FREDERIX )

インフォメーションはこちら

https://www.hotel-de-la-marine.paris

スモーキーグリーンで統一されたティエリー・ド・ヴィル・ダヴレー夫人の寝室

©️Tomoko FREDERIX 2024

マルク=アントワーヌ・ティエリー・ド・ヴィル・ダヴレーの書斎©️Tomoko FREDERIX 2024

まるで生牡蠣を開けながら食事をする最中に居合わせたかのような食堂の展示©️Tomoko FREDERIX 2024

書斎には似合わない装飾のピエール-エリザベス・ド・フォンタニューの”鏡の書斎”©️Tomoko FREDERIX 2024

コンコルド広場に面した大サロンはヴェルサイユ宮殿を彷彿させる©️Tomoko FREDERIX 2024

200年間コンコルド広場を見守ってきた元王室家具保管所©️Tomoko FREDERIX 2024